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のあ様より










破り捨てた言葉の裏




約束は要らない。果たされないことなど、大嫌いだから。

最初の出会いがよかったとは思えない。ベッドに入った理由も忘れた。ただ流れに逆らうことなく委ねた結果だったと思う。本能と、呼んでいいのだろうか。それにしては感情が複雑すぎるのだろうか。
いつからか朝が嫌いになった。夜明けが来る前に去っていくあいつの後姿を見るのが嫌だった。この関係に名前はないから俺には呼び止める術もない。俺が女だったならば何か違っただろうかと、扉が閉まる音を聞きながら考えるようになった。俺たちに決定的に足りないのは言葉だったから。女ならば何も言わずに伝わることもあっただろうに。たとえそうでなくても、この腹の中で吐き出された無意味な生命で繋ぎとめることも出来ただろうか。
言葉なんてものが、存在するからいけない。根本を疑うようになった。ただ真っ白なシーツの上で指を絡め合うだけで何も言わずともよかったのに、今は何だって言うんだ。水中で酸素を求める魚のようにあいつからの言葉を欲している。何か、この関係を繋ぎとめるような、そんな甘ったるい陳腐な言葉を。
「…なぁ、愛してる」
「………」
「ユースタス屋も、愛してる、って言って」

時間がなかった。焦っていたのかもしれない。待つだけでは何も変わらないと知った。ただ言葉が欲しかった。加減は知っていたはずなのに、いつの間にこうも溺れてしまったのだろうか。取り返しがつかないところまで来てはいけない。そうは思っても、俺を悩ます「言葉」を口に出せばユースタス屋は応えてくれるんじゃないだろうかと思ってしまった。俺が望む言葉を、期待通りに、同じように。



淋しい、なんてくだらないことは口に出したことはないが、出さないだけでそう思っていたのかもしれないなどと片鱗を疑わせるような態度を時たまトラファルガーはとった。出航の日時は伝えていなかったが、それが近づくにつれて何も言わなかったトラファルガーが言葉を求めるようになったからだ。ああ、こいつももうすぐ出航するんだろうな、なんてその姿を見てぼんやり思ったのは記憶に新しい。
特に統一性があったわけでもないが、要求されるのはとってつけたような陳腐な言葉ばかりで、らしくないと言ってしまえばそれで終わり。傷を舐めあうようなことはしたくなかったが、そもそもこの行為から怪しい。誰にも咎められないからといって深く踏み込み過ぎたのだろうか。追いかけてくる言葉を振り払う気にはなれなかったのは、結局は俺の方だった。

「…『愛してる』」

瞳の奥にちらつく光は焦燥か。たっぷり間を置いた後、トラファルガーが望む言葉を、望むように紡いでやる。そこに感情があるのかは分からないが、それでよかった。元々トラファルガーは気紛れな奴だ。これも何かの気紛れと言ってしまえばそうかもしれないし、ただのお遊びの一環かもしれない。それでもいいと思って言ってしまうほどには俺も終わっているのだろうが、本心を暴かないうちにこれ以上言ってやる必要はない。



たった一度だけ、他意なくユースタス屋が笑ったことを見たことがある。こんな身体を重ねていてもたった一度しかない。それだけの関係だからだ、と言ってしまえばそうなのだろう。その脆さが嫌になり始めたのはいつからか。
気紛れな奴だ、と確か言っていた気がする。いつどこで、どうしてその言葉をかけられたのかは忘れてしまった。気紛れだなんて今更だったから。だけどそう言って笑ったユースタス屋が忘れられなかった。もう一度見たいと思った。気紛れに振り回していれば、もう一度その笑った顔が見れるだろうかと馬鹿なことを思った。今から思うとその態度が誤解を生んだのかもしれないがもうどうでもよかった。
明るい月の灯に晒されて、隣で背を向けて眠る赤を見つめながら全部どうでもいいと思った。この気持ちも、どう対処していいのか分からないこの状況にも苛立っていた。どうでもいいと思って、漸く分かった。この先会える保障なんてない。下手したらもう二度と会えないかもしれないのに、何を躊躇うことがあるのか。どうせ最後には独りだ。この際虚の真実を押し通して言ったって誰にも文句は言われない。だから伝えた、そのままを。なのに。



愛してると伝えたあと、トラファルガーは少しだけを目を見張ったが、すぐにその目はすっと細められた。俺を映し出すミッドナイトブルーがゆらゆらと揺れる。その目が好きだった。その鋭い視線が好きだった。これは唯一はっきりと言える。抉り出してホルマリン漬けにしても悪くない。

「…それ、わざとだろ」

揺れる瞳が呟いたのは、歓喜でも愉悦でもなく、苛立ったような疑念だった。
伝えたはずの言葉はやはり感情がこもっていなければ受理されないのか。しかしお前の言葉が本心かも分からないうちに俺だけが吐露するのはフェアじゃない。なぁ、どうせその言葉もいつもの気紛れなんだろ?

「さぁな」

薄く笑みを浮かべて笑う。望むものが欲しいなら、言葉じゃなくてお前を寄越せ。









ひょわああああああ/////

のあ様より相互お礼という事で頂いてきてしまいました…!リクエストを聞いて下さったので、図々しくも私の描いた本能のキドロ漫画を…!とお願いしちゃいました>//<

図々しすぎるかな…大丈夫かな…と内心不安いっぱいだったのですが、のあ様お優しくOKして下さいました…(´;m;`)本当にありがとうございます…っ!

私には到底伝えきれなかった所まで細やかに表現して下さっていて本当に感動致しました…っ/////すれ違う二人が本当に良く伝わってきて本当に切ないようなもどかしいような気持ちになりますよね…切ないのだいすき…!←

この度は私のわがままリクエストを聞いて下さって本当にありがとうございました>//<大切にさせて頂きますーっ!




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