「貴方……一体……!」
「名を名乗る、必要は無いだろう」
何もかもが異質な男は、フィリアの無意識下の呟きに低く笑う。
「お前達は、此処で、死ぬのだからなァ」
笑うその男が彼等に向けたのは敵意ではなく、純粋な“殺意”。
殺意が一歩踏み出した瞬間、エミリオがジョブスの前に立ち右の剣で守りの体勢を取る。その次の瞬間には剣に重すぎる衝撃が走った。
「くっ……!」
「ほう、その細腕で我が一撃を止めるか」
「ほざけ……!」
一瞬でも力を抜けば、比喩などではなく本当に頭から真っ二にされる。
だがエミリオはその状態から左の剣で攻撃に転じ、同じタイミングで男の背後からジョブスが斬り掛かった。
しかし、
「な、っ……」
「っそだろ……!?」
後ろを向かず男は右手の指先でジョブスの剣を掴み止めた。エミリオの剣はあと数ミリで男の身体に届く所で退かれ、ジョブスも何とか剣を退き、2人は同時に男から離れる。
その1秒も満たない後、男の足下から淀んだ空気が流れ始めた。