『流石英雄……とでも言うべきか?』
重く低い声と共に、壁に黒い歪みが生じる。そこから抜け出る様に現れたのは筋骨隆々の一人の男。
人に見えるが、眼はまるで獲物を定めた獣の様に眼光鋭く、不適を描く口元も何処か異質、手に持つのは巨大で歪な斧。そしてその身から発せられるプレッシャーは、それそのモノが恐怖と呼ぶに相応しい。
男は虚ろを感じさせる様な声色で問う。
「かつて神の眼を破壊した英雄……フィリア・フィリスに、そちらはリオン・マグナス……だな」
「……リアラさん、下がって……!」
「フィリアさん……!」
ジョブスが己の前に立ったのと同時にリアラを自分の後ろに置いたフィリアは、横目でエミリオを見る。
隻眼の彼は既に二振りの剣を抜き、予期せぬ訪問者を睨み付けていた。
「貴様……!!」
ハーメンツヴァレーを“跳び越えた”青年は顔を上げる。
「何、だ……」
無意識に、首に下がるそれを握り締めた。
そして、逸る気持ちに任せ駆ける。