「……旅に出たいんでしょ?」
「えっ……」
どうして、と訊く前に母親は笑う。
「アンタの母親何年やってると思ってるの?」
自信に満ちた言葉と共に立ち上がり戸棚に近付いたルーティは、そこから何かを取り出した。カイルは未だ茫然としている。
背を向けたままルーティは訊いた。
「……旅がどれだけ危険なモノか分かってる?」
「う、うん」
「何時死ぬか分からない、ちょっとした事が要因で故郷に帰れなくなるかもしれない……それ、覚悟してる?」
「……あ……」
並べられた料理の意味が分かった。旅に出たら、二度とこの場所で、この席で、この料理が食べられなくなるかもしれない。
今更になってカイルは“もしかしたら”という小さな恐怖を抱く。しかしそれで、“一度決断した意思”が揺らぐ事は無かった。
「母さん、俺絶対帰ってくるよ。出来るなら……父さんと一緒にさ」
笑顔で少年は言う。
「世界の為に頑張るのは尊敬するけどさ、たまには帰ってきなさい、って何処かで父さんに会ったら怒ってやるんだ」