一瞬、エルレインから笑みが消えた。その一瞬が本当の顔だと彼女は知る。
「……分かりました」
突然、彼女に重い“何か”がのし掛かった。不完全な状態である意識は次第に消えていく。
「ですが貴女を過去のままにしておくのは私の使命に反します。……それに考えが変わる可能性もゼロではない筈」
「貴、様……」
「またお会いしましょう……その時は、良いお返事が頂ける事を期待しています」
闇の中に落とされた意識はすぐに覚醒する。
「……!」
起き上がり周りを見渡すその眼に写ったのは、窓から入る陽の光に照らされた部屋。壁に見覚えのある紋章のレリーフが掛けられているが、家具等の様子を見るにどうやら客室の様だ。
この光景が夢ではないというのは、己の胸の中にある“不完全”な状態の物が証明している。
「確か……アタモニ神団の……」
記憶の中から掘り起こした情報を口にし彼女は立ち上がり窓に寄る。ガラスの向こうに見えるのは整備された道と豊かな緑だった。
「……アタモニ神団……だが、フォルトゥナなんて神は……」
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bkm
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