屋敷に戻りメイドにエミリオの居所を訪ねると彼はジョブスと共に私室に居るらしい。
カイル達はアイスキャンディーが溶けてしまわない様にメイドに渡してから私室へ向かいノックをする。
『ん、……カイルか? 入っていいぞ』
声を聞かずとも言い当てたエミリオに皆で驚きながらゆっくりドアを開けた。
本棚一杯に本や何かの模型が置かれたその部屋で、彼は分厚いファイルを閉じている。そして傍らでジョブスが難しい顔をしていた。
「あれ、ジョブスさんどうしたの?」
「あー、やーさー、どうやらオベロン社の施設に泥棒が入ったみたいでな、犯人は捕まったみたいだけど」
「ぇえ!? な、何か盗られちゃったの?」
驚く若者達にエミリオが詳細を話す。
「今は使われていない施設だから目ぼしい物は置いていない、故に持ち出された物も無いようだ」
「そっか……よかった。でも、泥棒なんて酷い事するなあ」
「仕方あるまい、彼処には宝物が眠っている、なんて噂があるからな……真実にしろ何にしろ、持ち主に黙って宝探しなんぞ許される事ではないが」
そう言って、深い溜め息を吐く。
脳裏に過るのはかつて“強欲の魔女”と呼ばれた姉の姿だった。
「いいかカイル、お前は……その、何だ……人の土地に無断で入る様な事はするなよ」
「分かってるよっ、俺は泥棒なんかしない!」
「ならいいが……」
複雑な感情を宿した目はロニに向けられたが、彼はゆっくり視線を剃らす。
「……で、私に何か様か?」
「あっ、そうだった、エミリオさんとジョブスさんにアイスキャンディー買ってきたんだ! メイドさんに渡しておいたよ」
「そうか、ありがとうカイル」
「悪いねェ、気を使わせちゃって」
「ううん、エミリオさんもジョブスさんも頑張ってるんだから、当たり前だよ! ね、リアラ」
「そうね。あ、でもユダの分も買ったけれど、食べてくれるかしら……」
ふと不安を口にするリアラを励ましたのは、ファイルを棚に戻していたエミリオだった。
「いいんじゃないか? 別段苦手というわけでもなさそうだし。さっき部屋に戻っていたみたいだから声を掛けてきたらどうだ」
「うん、行ってみるよ! どんな顔するかなぁ」
「アイツの事だ、すげェしかめっ面するんじゃねェか?」
「ロニったら、ユダが聞いたらそれこそしかめっ面よ」
「容易に想像出来るわね」
和やかな雰囲気の若者達はユダの部屋に向かおうとドアに意識を向けると、ふと思い出した様にエミリオが声を掛けた。
「そうだリムル、帰ってからでいいからバッカスに伝言を頼みたいんだが、少し残ってくれるか」
「は、はい」
少し緊張しながらリムルは頷く。
先に行っているとカイルが言い三人が部屋を出ると、その直後にジョブスもドアに向かった。
「そんじゃ俺も、泥棒さんの事もう少し詳しく聞いてきますね。あ、俺の分のアイスキャンディー食べちゃ駄目ですからね」
「お前……私を何だと思ってるんだ」
「スイーツには妥協しないスイーツの申し子ですかね。じゃ、また後でー」
軽い笑い声と共に去っていく彼を睨み付けていたエミリオの目だったが、それはすぐに重い物に変わる。
リムルもそれに気付き、肩を強張らせた。
「お前、私に何か訊きたい事があるんじゃないか?」
「そ、んな事、は……」
誤魔化そうとするのは無意識で、それが無駄だと理解するのに時間は掛からない。
だからといってすぐにそれを言葉には出来ずただ立ち尽くす少女に掛けられた言葉は、優しくも重い物。
「夜、お前の家に行く、バッカスにそう伝えておいてくれ」
「……はい」
頷くリムルの目にあったのは、覚悟だった。