街の広場への道を進む中、ロニが溜め息混じりに呟いた。
「リムルも割と喧嘩っ早いなァ、もっとクールかと思ったぜ」
「べ、べつに喧嘩の売り買いじゃないわよ、向こうが勝手に絡んでくるだけなんだから」
「そりゃ未来のチャンピオン候補が気にならないわけがないしな」
何処と無く居心地が悪そうなリムルに、辺りを見渡していたカイルが質問をする。
「リムル、広場には何があるの?」
「え? えーっと、今の時間なら露店かしらね。ガッツリ系からデザートまで一通り揃ってるわよ。オススメはやっぱりアイスキャンディーかしら」
「あ、それ知ってる。冷たくて、とっても美味しいんだよね」
「冷たくて、美味しい……」
味の想像するリアラの前にそれは現れた。
鮮やかな色彩で“アイスキャンディー”と書かれているその露店は他の店より明らかに目立っており、よく知らなくても名物だと分かる。
「わぁ、どれも美味しそうだね!」
「ホント……カラフルで、目移りしちゃうわ」
メニューとして並べられているアイスキャンディーの写真を見てはしゃぐカイルとリアラを、ロニとリムルは温かく見守っている。
「あ、このさくら味っていうの、リアラみたいだね」
「え、そ、そう?」
「うん、とっても可愛いからっ」
「かっ……えっと、あ、このレモン味は、カイルみたいじゃない?」
などというやり取りを目の前で繰り広げられロニが何も思わない筈が無く、リムルもそれを察していた。
「ロニにも……きっと、いい人が現れるわよ……」
「それがお前である可能性は」
「私、ロニはタイプじゃないのよね」
「クールだなぁ……分かってたけどさ……」
今度は互いのアイスキャンディーを交換して食べている二人にロニから遂に溜め息が漏れる。
「ビックリだろ……アレで付き合ってないんだぜ?」
「カイルは無自覚なんでしょーね。ハイ、闘技場でも人気の肉串」
「サンキュ。……ハァ、子供の成長に寂しさを感じるってこういう感じなのかねェ」
肉串を頬張りながら沁々と呟く彼の隣でリムルの眼が動揺する。
その動揺は、無意識の内に答えを求めた。
「ロニ、あの……」
「ん? どした?」
「そ、の……えっと……」
即断即決が常である少女が口ごもる。
その様子にロニも真剣な眼差しを返した時、カイルから声が掛かった。
「ねえロニっ、エミリオさんとジョブスさんとユダにもアイスキャンディー持っていった方がいいかな?」
「えっ? あ、あー、そうだな、せっかくノイシュタットに来たんだから名物食べないと勿体ないもんな。でも溶けちまうから早く戻らねェと」
「うん、じゃあ全力でダッシュだね!」
「それはいいが転ぶんじゃねェぞ?」
注意をするがそれは届かずカイルはアイスキャンディーの方へと意識を向ける。そこにリアラが加わり、二人でアイスキャンディーを選び始めた。
「エミリオさんやジョブスさんはともかく、ユダは食うのかねェ」
「食べるんじゃない? 何処と無くエミリオさんに似てる気がするし」
「えっ?」
「え……何よ」
何故驚かれたのか分からず顔をしかめると、驚いた方は視線を未だ悩んでいる少年に向ける。
「いや……カイルと同じ事言うんだなって」
「カイルと?」
「ああ、カイルの事だから思い付きとかで言ってんだろって思ってたんだが……お前に同じ事を言われるとな……」
思う事があるのは明白で、それが彼にとって大きな引っ掛かりになっているのも確か。
そしてそこに安易に踏み込んでいけない事が嫌でも理解出来てしまう。
「まあ、あんまり難しく考えてもな……っと、そういや何か訊きたい事でもあるのか? リムル」
「あっ、えーと……ううん、大した事じゃないからいいわ」
「……そうか」
逃げる様にしてカイルの方へ行くリムルを、ロニは追いはしなかった。