「わー……すっごいね!」
目を輝かせるカイルの目の前で繰り広げられているのは、素手による男と男の闘いだった。それを囲む観客席はほぼ満員であり、絶え間無く激しい歓声が上がっている。
しかしカイルの従姉妹である彼女は冷静だった。
「カイル、はしゃぎ過ぎよ」
「だってこんなに沢山人が居て、皆元気で、はしゃがない方がおかしいよ!」
「んー、ここはカイルの方が説得力あるなァ」
「えー……」
納得出来ないらしいリムルは溜め息を吐く。
それから戸惑っている様子の出会ったばかりの少女に声を掛けた。
「大丈夫?」
「あ、えっと……う、うん……」
一目でこの様な場に慣れていない事が分かる、リムルとは対照的な少女。カイルと、そしてあの英雄と旅をしてきた少女。
少し離れた場所で騒ぐ男子達を余所に変わらぬ声色で質問をする。
「貴女は、どうしてカイルと一緒に居るの?」
「えっ、え、と……カイルが、仲間になるって、言ってくれて……」
「へぇ……カイルらしいわね」
これは納得出来たのか彼女は熱い闘いを見つめ息を吐く。
「カイルって昔からそう、困ってる人が居たら助けようとして……時々邪険にされた事もあったけど全然懲りないし、笑ってるし。“俺は父さんみたいな英雄になるんだ”ってずっと言っててさ」
「うん、分かる……私も最初は助けてもらったのに無愛想にして……でもカイルは、また助けてくれた、笑ってくれた」
「ホント変わってないのね。……正直な所馬鹿だなーって思ってた事もあったけど、此処まで来るとホントになれちゃうんじゃないかなって思うわ」
「……そう、だね」
短く肯定する事しか出来なかった。
それが何故なのかは、ぼんやりと心の中にある。
「リアラ、カイルの事を好きなの?」
「うん……うん!?」
想定外の爆弾が投下され慌てるリアラを見たリムルは笑った。それはカイルに似た、屈託の無いモノだった。