「……さくら味、ね」
露店の看板を見つめてユダは呟いた。
街の憩いの場となっている広場、幾つかある露店の一つに彼は集中していた。
「お兄さん、お一つどうだい? ノイシュタットの名物だよ」
「……じゃあ、さくら味を、一つ」
「はい、まいど」
代金を受け皿に置き今だけの色のアイスキャンディーを受け取ると、空いていたベンチに腰を下ろす。
そうして自然と視界を染めるのは、青い海と空だった。
「時は経てど空と海は変わらずか……」
口の中が甘くて冷たい、記憶と同じ味。
違うのは、一人だという事。
「……いいんだ、これで」
そう自分に言い聞かせて、溶けない内に最後の一口を口に入れる。
あとは残った木製の棒をゴミ箱に捨てるだけだったが、それに文字を見つけ手を止めた。
「あー……」
果たしてどうしたものかと悩むその視界の隅から声が聞こえる。
「もー、何やってんだよ、走るなって言っただろ?」
「だって……」
「だってじゃないよ、大丈夫か?」
「ん……にいちゃ……ごめんなさい……」
子供が二人、兄と妹だろうか。会話の内容と、女の子の足元に落ちているアイスキャンディーを見れば大方の状況予想はついた。
ユダは水場で手に持つそれを洗った後、暗い空気に包まれた兄妹に近寄り躊躇い無く差し出した。
「あげる」
「えっ? あ、あたり棒だ! いいの!?」
「うん」
軽く頷くと兄はあたり棒を受け取り、目の前の青年を見上げる。妹の方も先程とは打って変わって子供らしい明るい目を向けた。
「ありがとう兄ちゃん!」
「おにいちゃんありがとー」
「……どういたしまして」
今己がどんな表情をしたか分からないまま、手を繋いでアイスキャンディー屋へ向かう兄妹を見送った。
仲の良い兄妹、それはわざわざ説明されなくても分かる。
「……羨ましいとは、思わないかな」
それよりも大事なモノがあるからだろうか。