12
「……さくら味、ね」


 露店の看板を見つめてユダは呟いた。

 街の憩いの場となっている広場、幾つかある露店の一つに彼は集中していた。


「お兄さん、お一つどうだい? ノイシュタットの名物だよ」

「……じゃあ、さくら味を、一つ」

「はい、まいど」


 代金を受け皿に置き今だけの色のアイスキャンディーを受け取ると、空いていたベンチに腰を下ろす。

 そうして自然と視界を染めるのは、青い海と空だった。


「時は経てど空と海は変わらずか……」


 口の中が甘くて冷たい、記憶と同じ味。

 違うのは、一人だという事。


「……いいんだ、これで」


 そう自分に言い聞かせて、溶けない内に最後の一口を口に入れる。

 あとは残った木製の棒をゴミ箱に捨てるだけだったが、それに文字を見つけ手を止めた。


「あー……」


 果たしてどうしたものかと悩むその視界の隅から声が聞こえる。


「もー、何やってんだよ、走るなって言っただろ?」

「だって……」

「だってじゃないよ、大丈夫か?」

「ん……にいちゃ……ごめんなさい……」


 子供が二人、兄と妹だろうか。会話の内容と、女の子の足元に落ちているアイスキャンディーを見れば大方の状況予想はついた。

 ユダは水場で手に持つそれを洗った後、暗い空気に包まれた兄妹に近寄り躊躇い無く差し出した。


「あげる」

「えっ? あ、あたり棒だ! いいの!?」

「うん」


 軽く頷くと兄はあたり棒を受け取り、目の前の青年を見上げる。妹の方も先程とは打って変わって子供らしい明るい目を向けた。


「ありがとう兄ちゃん!」

「おにいちゃんありがとー」

「……どういたしまして」


 今己がどんな表情をしたか分からないまま、手を繋いでアイスキャンディー屋へ向かう兄妹を見送った。

 仲の良い兄妹、それはわざわざ説明されなくても分かる。


「……羨ましいとは、思わないかな」


 それよりも大事なモノがあるからだろうか。


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bkm

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