何はともあれ出掛ける準備をしようとカイル達は部屋を出ていった。着いていかなかったユダも流石に居心地が悪くなったのか無言のまま早足で去った。
食べ終わった朝食も使用人が下げ、それと同じタイミングで船の様子を確認する為にジョブスが港へと向かう。
「……カイルにまで気を使われるとはな」
「いい甥っ子じゃないか、大事にしろよ」
「はー……あー……」
「言いたい事があるなら言っちまえ、内緒にしとくから」
背凭れに体重を預ける彼は、バッカスの言葉を受け口を開いた。
「糖分が足りない……っ」
「ウチで何か食って来たんだろ?」
「味は申し分ないが、足りるわけないだろ……。なあ、都合よく品評会とかやってないのか」
「やってるわけないだろ。あるとしたら何時ものアイスキャンディー屋の限定フレーバーくらいだ」
現実を突き付けると、天井を見上げるエミリオの深い深い溜め息が返ってくる。
「アイスキャンディーか……今年の限定は何だったか」
「さくら味だな、結構人気なんだよ」
「……さくら味、か」
見上げた天井を、目を閉じる事で視界から消す。瞼の裏に写るのは忘れられない思い出だった。
「どうした?」
「いや……昔も食べたなと思っ……いや、味はよく覚えていないな」
「ふーん? どうしてまた」
甘い物にうるさい男が、と敢えて続けないバッカスにエミリオは教えた。
「リリスから一口どうぞって差し出されたらお前どうする」
「察せざるを得ないな」
「我ながら本当に若かったと思う」
「皆そういう時期があるって。俺だってリリスの手料理食べるのに随分と緊張したもんだ」
互いの昔話を溢した所で彼は思い出す。
「そういえばな」
「ん? どした?」
「あの馬鹿、まだ覗きをやっている様だったぞ」
不自然な、しかしある意味では自然な静寂が部屋を支配して。