気にはなるがコレは詮索する事ではないと考え、改めてバッカスに視線を向けた。
「バッカス、朝からどうしたんだ」
「何だよ、用が無かったら来ちゃいけないのか?」
「そうは言わないがな、お前だって暇ではないだろう?」
「友達の顔を見る時間ぐらいあるさ、少しぐらい労わせてくれよ」
嘘偽りの無い笑顔、その隣の娘は輝く眼で英雄を見ている。それはカイルのそれと似ている様で少し違う、強い感情があった。
「リムル、修業は順調か?」
「はいっ、先日は闘技場で三連勝しました」
「ほう? しかしそうなるとコングマンがうるさそうだな」
「すっごい睨まれてる、俺が」
バッカスが吐く溜め息は深く、どれだけそれが彼を悩ませているのかよく分かる。
だがフォローはせずエミリオはただ鼻で笑うに留まった。
「アイツもイイ歳だからな、世代交代は必然だろう」
「焚き付けるなよ?」
「私が何時そんな事をした?」
「胸に手を当てて思い出してくれ」
言われた通り胸に手を当てる彼だが、心当たりが無いのか首を傾げる。それを見てバッカスは笑った、眼は決して笑ってはいないが。
「はは、このやろー」
「小さい事はあまり気にしない様にしているんでな」
「それは心当たりあるって自白している様なモンですよ総帥」
「バッカスも剣術修業をしていると教えてやっただけなんだがな」
そう言って意地悪な笑みを浮かべる叔父の姿をカイルは楽しそうに見ていた。カイル等に見せるモノはまた違う、何処か子供っぽさを感じさせた。
それが嬉しいと感じた少年は、勢い立ち上がった。
「エミリオさんっ、俺闘技場行ってみたい!」
「ああ、船まで時間があるからな、街から出ない範囲でなら好きにしろ」
「総帥、返事が速すぎませんかね」
「相手はカイルだぞ?」
その一言で納得したのはカイル以外の全員。
そしてその中で右手を上げたのはリムルだった。
「あの、じゃあ私がカイルを案内します」
「ああ、よろしく頼む」
「お前エミリオが来るって聞いた日からずっとそわそ」
横腹に娘から手痛い一撃を受けた父親はその場に踞った。カイルとリアラは慌てているが、ユダ以外の大人は溜め息を吐いている。
「思春期の娘をからかえばそうなる」
「彼女の娘だしなぁ……親子揃ってツッコミが厳しい」
「女の子からなら激しいツッコミもアリなんですけどね」
「お前がそんなんだからリムルが案内するって言ったんだぞ」
予想しない言葉に動揺し、かつ何か期待したのか目が輝くロニだったが、それを彼女は冷たく否定した。
「私の友達をナンパされたら困るもの」
「それは……もしやヤキモチ……」
「何か言った?」
「いえ、なにも」
隙あらば懐に飛び込もうとする姿勢にだけはエミリオもジョブスも感心する。