「……この花がそれだという確証は無い。仮にそれだとしても、ほんの少し量を間違えただけで薬は毒になる」
ファイルに目を落としたまま、真剣な声で返答はされる。
「だが、恐らくは……この、予防に使っている薬が使える。だからこの花を――」
「ふむ……だとすると開発班に――」
二人が纏う第三者を寄せ付けない雰囲気に他の者は思わず息を飲む。
その中でもジョブスは、目の前に既視感を覚え息を飲む。
「ジョブスさん?」
「ん、あ……ああ、どしたカイル君」
我に返ると、カイルが首を傾げていた。
「なんか、ボーッとしてた」
「あー……ああ、いやァ、顔が良いのが揃ってるなーって」
「そっか、そうだね、エミリオさんもユダもカッコいいもんね。ちょっと憧れちゃうなー、大人ーって感じでさ」
「ま、カイル君だってそのうち大人になるさ」
一体何に対しての既視感だったのか、結局彼には分からなかった。
「フィリアにも話を回した方がいいか……グズグズしている暇は無いな。誰か! 速達の手配を頼む!」
ファイルを片手にエミリオは慌てた様子で部屋を出ていく。その背中を見ていたリアラが呟いた。
「人の上に立つって、やっぱり大変なのね……色んな事を考えなきゃいけない……」
「大勢の人生を預かるからなァ、エミリオさんにはその覚悟があるわけだ」
「人生……か……」
ロニの言葉にふとリアラが視線を落とすと、パンを頬張るカイルが首を傾げる。
「どうかした?」
「ん、ううん、エミリオさんって凄いなぁって」
「俺もそう思うよ、話よく分かんなかったけど。だからユダも凄いっ、エミリオさん嬉しそうだったし」
「え?」
突然呼ばれたユダが少し動揺しているにも関わらず、カイルは真っ直ぐな目を向けた。