ジョブスが普通の料理と野営料理の違いを説明している間にカイルは戻ってきた。すっかり目が覚めたのか楽しそうに朝食を見ている。
「わー、美味しそうだね!」
「とっても美味しいわよ、カイルも早く食べて」
「うん、いただきます!」
元気よく手を合わせ、彼は大きな口でパンを頬張った。それは見ているだけで美味しいと分かる顔で、周りを幸せな気分にする。
そのおかげでロニもやっと心中穏やかになったのか、スープを飲んでゆっくり息を吐いていた。
「カイル見てたらどうでもよくなってきたな」
「ん、何が?」
「いんや、べつにー?」
後腐れの無い笑顔を見せたロニを一度は不思議に思うカイルだったが、すぐに一緒に笑った。何時もの二人にリアラとジョブスも笑い、穏やかな朝の一時を飾る。
その片隅で早々に朝食を済ませたエミリオが改めてファイルを開いていた。それから写真が一枚床に落ち、ユダが拾い上げる。
「……この花……」
小さく呟かれたその言葉を聞き逃さなかったエミリオが視線を彼に向けた。
「知ってるのか、その花」
「えっ、……あ……いや、昔、資料で」
どうやら無意識に口に出していたらしい言葉を指摘されたユダは写真を返し顔を背ける。
触れずにおくのが彼の為なのだろうが、そうもいかない事情があるエミリオは踏み込む。
「知っている事があるなら教えてくれないか。廃坑で発見されたんだが、いくら資料をひっくり返してもどんな植物か分からなくてな……新種にしたって近しい種類があってもいい筈なんだが」
「廃坑……」
ふと、ユダの目が変わった。考え込む、というよりは頭の中で何かを整理しているかの様な遠くを見ている目をしている。
賑やかなカイル達のすぐ傍で、静かにそれは語られた。
「ある一定の環境下にのみ花を咲かせる植物がある。僕が知るのは随分昔に絶滅した物で……その必要な環境というのが光と、水と」
「レンズに似た構造を持つ特殊な鉱石、か?」
「……薬の材料になるらしくてな。流石に万能薬とはいかないが、呼吸器系の病によく効くと――」
「それは本当か!?」
珍しく声を上げたエミリオにユダだけではなく全員が驚く。視線はファイルをテーブルに置きページを探す彼に全て集まっている。
「ど、どうしました、総帥」
「カルバレイスで流行っているのは肺の機能が徐々に低下していく物だ。何とか予防策は確立されたが、病その物に効果のある薬が完成出来ていない……カルバレイスの外で同じ事が起きないとも限らない以上、一秒でも早く完成させなければならないというのにな」
ジョブスの声が聞こえていないらしいエミリオは、目当てのページが見つかったのかそれをユダの前に置いた。
「お前は、これをどう思う」
「…………」
力強い目、責任を負う者の目。
ユダはゆっくりとファイルに目を通していく。