「それはロニがナンパしたいだけでしょー……」
その声は寝ている筈のカイルの物で、当然皆の視線はそこに向く。
注目の的になった少年はゆっくりと身体を起こしていた。
「ツッコミ起きとは、新しい」
「難易度高過ぎるな」
冷静な分析をするジョブスとエミリオの目の前でカイルは呑気に大きな欠伸をし、状況を確認しているのか部屋を見渡している。
「うーん……あ、おはよ」
「おはようカイル、やっと起きたのね」
「うん……あ、いい匂いがするね」
朝食に気付き嬉しそうに微笑むと、釣られてリアラも笑みを溢す。それは何とも微笑ましい光景で、ロニが物凄く羨ましそうに見ている。
何はともあれ起きたのならばとエミリオが声を掛けた。
「カイル、取り敢えず顔を洗ってこい」
「はーい」
素直に頷きカイルは部屋を出ていき、それを見送ったロニから深い溜め息が聞こえる。
「ロニ、座れ」
「……はい」
「きっと良い事があるって、頑張ろうや」
「はい……」
あの熱は一体何処へ消えたのか、まるで水でも掛けられたかの様に静かになった彼は静かにサラダを咀嚼した。
「美味いですね……」
「一流の料理人を雇ってるからな」
「そういえば総帥って料理出来るんでしたっけ」
「野営訓練で基礎は習うだろう」
そうじゃなくてとツッコミを入れるジョブスだが、空しくもそれは通じず首を傾げられてしまった。
「何が違うと言うんだ」
「このたまに発動する天然は何なの。ギャップか、ギャップ狙いか」
「何を言ってるんだ、お前は」
「そのまま打ち返したいその言葉」
朝から疲れたと表情が語る、それでも意図を理解していないエミリオはロニを見るが苦笑いを返されてしまう。
悩む彼を見て、リアラがユダへ呟いた。
「ちょっとだけ、カイルに似てるかも」
「普段気を張っている分、気を抜くと素が出るんだろう」
「気を抜く……」
確かに気を抜いているのだろう、そうでなければあの様な顔を見せない。リーネでも気は抜いていただろうが、先の事もあり肩の荷を完全に下ろしていたわけではないだろう。
しかし今は尾根を越え本来の目的地に居る、本当の意味で気を抜く事が出来るのかもしれない。