眠ったままのカイルはソファーに寝かされ、朝から体力を使ったエミリオはファイルをテーブルに置き自身も腰を降ろす。
「完敗ですか」
「私もリリスに教えを請えば良かったか……」
「嫌ですよ俺、剣の代わりにフライパンとおたまを携えた上司なんて」
「問題無い、リリスはフライパンとおたまでモンスターをどうこうしていた」
それは余りにもイレギュラーだとツッコミを入れたいジョブスだが、その前に朝食が到着したのでそちらを優先した。ロニも落ち込んだままではあるが、場の流れに従い席に着く。
テーブルに並べられた朝食は絢爛豪華とはいかないものの若い者に合わせてか量も種類も多く、どれもこれも出来立ての温かさがあった。
「カイル君は……起きてねェな、こりゃ慣れない旅疲れか」
「その内起きるだろう、寝かせておけ」
ファイルを開きながらパンを手に取ったエミリオだったが、ふと我に返ったかの様に一度開いたそれを閉じる。
どうしたのだろうと不思議そうにしている面々の中で、一人ジョブスが笑いを堪えていた。
「確かに、行儀悪い、ですよね」
「うるさい」
「あ……ふふっ」
今度はリアラが笑う、それが思い出し笑いと気付いたのはエミリオだけ。
「リアラ……」
「うふふっ……ごめんなさい」
「おんや、二人して秘密のお話ですかー?」
「はい、秘密なんです」
意地悪な笑みを浮かべながら少女はゆっくりとコーンスープを飲む。
それと対照的なのは当然ロニで、譫言と共にパンを口に運んでいた。
「総帥のせいですよー」
「紹介するとは言ったが、仲を取り持つとは言ってない」
「まあそうですけど、この傷は深いですよー?」
「この程度乗り越えられないなら、ナンパなんて金輪際止めるのが本人の為だろう」
心の底からそう思ったからそう言った。
対しての反論は数秒も掛からなかった。
「それは違いますよエミリオさん!」
ロニは立ち上がり、拳を作り宣言する。
「俺は諦めませんよ! この広い世界の何処かにきっと、俺の運命の人が居る筈なんだ! 俺はそれを見つけるまで、諦めません!」
熱く語る、まるでカイルが英雄を語る時の様に。
その熱に危うく流されかけたジョブスが我に返る。
「いや、その方法がナンパである必要は無くね?」
「それ以外にどう女性に声を掛けろと!?」
「それは……うーん……ねー総帥ー」
「私に振るな」
至極面倒だと態度でも表し食べ進めるエミリオ。ユダやリアラも巻き込まれまいと露骨に現場から目を逸らす。