雨も風もほんの十分程で修まり、数分程歩くとすっかり霧は晴れた。
青い空と穏やかな風、当然気分も晴れやかになる。
「あーすっごい気持ちいい! やっぱり空が青いのいいね!」
「だな、霧ばっかじゃ体温も気分も落ちるし。つーか、俺みたいな男には太陽がよく似合う!」
「そうかしら、カイルの方が似合うと思うわ」
「な、何ィ!?」
まさかの反撃に合ったロニが驚愕し仰け反っていると、分かりやすく高揚しているカイルがユダの服を引っ張り空を指差した。
「ユダ見てっ、虹が出てる!」
「……そうだな、なかなかハッキリ見えている」
「ユダの言った通りだね、やっぱり凄いや」
「だからべつに……虹なんて、条件さえ分かってれば見れる。……空が閉ざされるなんて事が無ければな」
皮肉めいた笑みに返ってきたのは、カイルの真っ直ぐな笑顔。
「大丈夫だよ、そんな事になったら俺が何とかするからさ!」
「……決して頼もしいとは言えんな」
「そんな事ないって! 俺は未来の大英雄だからね!」
自信たっぷりに胸を反らすその様子をリアラとロニが楽しそうに見ている。対照的にユダの表情は優れず、遂には溜め息を溢した。
「ったく、目出度い奴だな……」
「え、俺ってめでたいの?」
「……嫌味を言うだけ無駄か」
更に深い溜め息を吐いても少年の笑顔は変わらない。ロニがそれを笑い飛ばした。
「んなの今更じゃねェか、コイツの目出度さは筋金入りだぜ?」
「…………だな」
よく分かってないカイルにはリアラが微笑む。
先程も似た様な光景を見た気がするエミリオの目は、地図を確認している軍人に向けられた。
「目出度い男……」
「総帥ストレス溜まってんじゃないですか、八つ当たりは良くないですよ。ノイシュタット着いたら一杯どうです?」
「お前の奢りでならな」
「……破産する未来しか見えない」
地図を閉じ、今度は虹を見ている彼に問う。
「大丈夫ですか?」
「それはどういう意味でだ?」
「色々詰め込み過ぎじゃないかなって」
「……頭の中の整理をしたくはあるな」
そう答えると、ジョブスは何故か笑った。
「じゃあ飲みましょうか、俺の奢りで」
「船で吐くなよ」
「総帥にだけは言われたくねーなー」
「それはガキの頃の話だろう」
他愛ない時間がこんな時だからこそ必要だと思えるのは、大人になったからなのだろうか。
歩みを進めながら、見上げる虹と若者達に彼はふと思う。