精神的に暑苦しい山小屋を後にし、一行は霧の中を進む。
状況は霧が濃く見通しが悪い上に、身体全体を冷気が襲っていた。
「寒いわね……息も白いわ」
「俺こんなに寒いの初めてかも」
「の割には、元気だよなカイル君よ。俺ァ辛いぜ、節々にきそう」
「子供は風の子って言いますからねェ。あ、勿論俺は平気ですよ? 鍛えてますから。いざという時はこう、凍える女性を温めてあげてですね……」
べつに訊いてはいない事を得意気に話すロニを何やら哀しげな眼でジョブスは見つめる。
「下心もここまでくると尊敬だわな」
「それは尊敬じゃなくて同情と言うんだ」
「英雄の一撃が重過ぎる……」
指先が冷気で固まらない様に解しながら彼は、今度は見えぬ遠くを見つめた。
その目が何を思っているかなんて心底どうでもいいエミリオは、相変わらずの様子であるユダに声を書ける。
「お前も、大丈夫みたいだな」
「寒さにはなれ――」
不自然に切られた言葉、そして僅かに歪む表情。これは余計な事を言ったというよりも、不自然な一瞬の間を考えるに言葉を切ってしまった事を後悔しているのだろうか。
「だがそれと体調が万全かは別だろう」
「……前に出なきゃいいんだろ」
だからこれ以上話を広げるなと語る目は、微かに動揺を見せている。触れられたくないのだと理解するのは簡単で、だからエミリオをその希望を叶えた。
「しかし何とも濃い霧だな、地形の変化で此処まで天候が変わるとはな」
「岩一つ置いただけで天候なんて変わるものだ。……地図を書き換えるのも大変だったろうに」
「そうだな、一地域ならまだしも世界全域だからな……測量班は一生分働いただろう」
「世界地図を変える様な化け物を相手にしたアンタ達と比べたら、なんて事はないだろうよ」
そう言ってほくそ笑む顔に、何時もの不適なそれは無かった。