ゆったりと朝食を済ませた後は、手分けをしながら暖炉の火を消したり使った物を元通りにしたりと後片付けを始める。
「えっと、毛布はここで……リアラ、枕ちょうだい」
「はい」
「うん、ありがとう」
棚に毛布や枕を戻しているカイルとリアラを見つめていたロニが、隣に居るジョブスへ不意に呟く。
「やっぱり、ああして見ると普通の少年少女ですよねェ……」
「片や英雄の息子、片や不思議な力を持つ少女……確かに絵物語で見る組み合わせだよねェ。何も起きない方が不思議だわな」
「そしてそれを見守る元チャンピオン」
「素晴らしきかな筋肉の守護神」
火の始末をしながら結局意図不明な会話を繰り返していく青年と軍人を冷たい隻眼が向けられていた。
「お前等、虚しくないのか?」
「天から二物貰った男は黙っててください」
「訂正、二物どころか万物ですよ」
「ホントそれな、伊達にファンクラブ出来てないってか」
小さくなる火の前で丸まった二つの背中を睨み付けるその傍で、ユダは窓から空を見上げ小さく溜め息を吐いている。
気付いたエミリオがその訳を訊いた。
「何かあったか?」
「霧が濃い」
「霧……?」
外を確認すると、確かに昨日より濃い霧があった。進む分には問題は無いが、より警戒は必要だろう。
「ふむ……雨は降らないだろうが、冷えるかもしれんな」
「分かるのか」
「……貿易を行う上では必要な知識だからな。カイル、リアラ、防寒をしっかりしておけよ」
それらしい理由を返してからエミリオは未だ丸まっている背中を鞘で小突いた。
「さっさと動け、荷物持ち共」
「総帥の言葉が一番冷たい」
「温もりが欲しい」
「そこの税金泥棒はともかく……ロニ、そんな腑抜けじゃ女の紹介なんて出来んぞ」
それを聞いて彼が立ち上がらない筈が無い。
「さあ、ガンガン行きましょう!」
「裏切り者ぉ!」
軍人の叫びの余韻は虚しさしかなかった。