「あ……なにやってんのー?」
寝惚けているとすぐに分かる間の抜けた声。こんな声を出すのは一人しか居らず、やはり寝ぼけ眼の彼はそこに居た。
「カイル……どうした?」
「んー? なんか、めーさめてさー……ロニとユダいなくて……そしたら、こえきこえて……」
「そんで出てきたと……あー、ちょっと外の空気吸ってただけだよ、戻って寝な」
「んー……でも……」
目を擦りながらカイルはユダを見ている。
「ユダなんか……ぐあい、わるそう……」
「……僕は大丈夫だ、さっさと寝ろ。ノイシュタットまで歩かなきゃならないんだからな」
「あーそっか……うん、ねる……ユダも、やすんでね……」
その言葉の後に大きな欠伸をし、彼は寝ぼけ眼ながらしっかりとして足取りで戻っていく。
二人に戻った小屋の裏は、先程の重い空気は消えていた。
「夜中に起きる事なんてあるのか……」
寝つきが良くて寝坊助、睡眠の申し子と言っても過言ではない少年の思わぬ登場にユダは驚く。そしてその直後に、ロニの表情が重い事に気付いた。
「……どうした?」
壁と距離はどうしたのだという叱咤を無視し、ほぼ無意識に問い掛ける。するとロニは我に返ったのか慌てた様子で質問をする相手を見た。
「い、や、べつに……俺も驚いた、だけだ」
「……そうか」
踏み込むべきではないと理解するのは簡単、だからこんな事を言うのだろうか。
「お前も寝ろ、火の番は僕がしてやる」
「は? いや、お前身体が……」
「問題無い、寝付けない身体をもて余すよりはマシだ」
反論は受け付けないと言いたげなその場を後にしようとするユダをロニは慌てて追った。
「無理すんなよ、倒られでもしたら面倒だ」
「生憎そこまで軟弱に出来てない」
「説得力が皆無なんだが」
「どうとでも言え、お前の受け取り方の問題だ」
小屋に入って早々暖炉の前をユダは陣取る。退ける様子は微塵も無いと察してしまったからには折れるしかなく、他の皆が寝ている中にロニも混じる事になった。
暫くすれば小さな火の音と、外のやや強い風の音、人が生む音は寝息だけとなる、筈だった。
「う……ん……」
聞こえたのはカイルの声。先程の事もあり彼の方を見ると、寝苦しそうに寝返りを打っていた。
「……?」
普段と何か様子が違う様に感じ、確認しようとユダは軽く腰を上げる。その時、何時の間にかカイルの傍に居た隻眼の彼と目が合った。
彼は自分の唇に人差し指を置いた後、また寝返りを打ったその頭を優しく撫でる。
「ん……ぅん……とー、さ……」
ゆっくり続けていると普段のカイルの様子に戻っていく。すると頭から手が離れ、また目が合った。
「無理はするなよ」
「あ……ああ……」
彼は何事も無かったかの様に再び横になる。
見ている事しか出来なかったユダは、胸を押さえながら火を見つめた。
「……まさか」
何の根拠も無い可能性が頭を過る。
もしもそれが真実だったとしたら、現実とはなんて残酷なのだろうか。