火の番を交代したロニは転た寝をしている。
身体を起こした彼は、音を立てず小屋を出た。
「…………っ」
胸に走る激痛には覚えがある、原因も分かっている。外郭が崩壊した影響で地上に発生した神の眼に近い特殊な型のレンズエネルギー、それを持つモンスターと遭遇し同調してしまっただけの事。
ソーディアンが傍にあった時の拒絶反応に似ているがそれ程酷くは無い。だが神の眼その物が存在しない今決して軽視は出来なかった。
「く……ぅ……」
対処は簡単、落ち着いて、勝手に動き回ろうとするエネルギーを制御すればいい。だがそれが出来ず、今こうして小屋の裏で腰を下ろしている。
精神的な問題、焦っている、恐れている、そこまで分かっていても解決が出来ない。
心というのは、本当に厄介だと己を嘲笑う。
「はぁ……ぅ……」
エルレインの嘲笑すら聞こえてくるようだった。或いは本当に嘲笑っているのかもしれない。
それ見たことかと、愚かな裏切り者を笑っているのだろう。
「ユダ?」
偽りの名前を呼ぶこの声は幻じゃない。
背後を取られてしまった事に己へ悪態をつきながら呼吸を整えユダは振り返った。
「お前、こんな所でどうしたんだ」
「……べつに」
火の番をしながら転た寝をしていたロニ。目を覚まし、居ない事に気付き探しに出てきたのだろう。他の者に声を掛けたどうかは分からないが。
「お前、もしかしてまた……」
「放っておいてくれ、今更どうなるわけでもない」
「お前な……!」
心配に対して否定を返せば怒るのは自然な事だろう。
なら何を返せばいいのだろうか。
「僕の心配をする余裕があるなら、出来の悪い弟分の面倒でも見ていろ」
こうやって壁を作って、距離を作って、果たしてこれは正しい事なのだろうか。
分かるのはこれ以上は無意味だという事。だから腰を上げ中に戻ろうとした時、三人目の足音が聞こえた。