見た目やネーミングセンスに惑わされてはいけないと学べる程に常識的な食事を終えた後、無駄な消費は抑え迅速な体力の回復をとるべきだというエミリオの意見に皆は賛同し少し早めの床についた。
毛布にもコングマンの刺繍がある事を見つけてしまったジョブスとロニから抗議の声が上がるが、どうする事も出来ないのは分かっている大人達であったのでただの虚しい遠吠えに終わっている。
「何が哀しくてコングマンに見守られて包まれて寝なきゃならねェんだよ……」
「まあまあ、若いのを見習いたまえよ」
そう力の無い声でジョブスが指差したのは、ぐっすりと眠っているカイルとリアラ。傍の壁には件のポスターがあり、最早守護神の様にも感じられてしまった。
「これが、チャンピオンのオーラ……!」
「やっぱり男は筋肉ですよね……!」
「トチ狂った事言ってないで寝ろ、番をしろ」
「ちぇ、総帥は冗談通じないんだから。ロニ君寝ちゃっていいよ、時間になったら起こすから」
促されたロニは軽く挨拶をした後毛布と共に横になる。最初の火の番であるジョブスは火掻き棒を片手に暖炉の前で胡座をかいた。
それを見てからエミリオも床に身体を預けようとしたが、ふと彼が視界に入る。
皆から離れた位置で此方に背を向け、毛布を被り、横になっている青年。眠っている様に見えるが、恐らくそれはフリだろう。
「総帥も、さっさと寝てくださいよー?」
「……分かっている」
ジョブスも分かっていて言っているのだろう、だからといって彼が眠るとも思えないが。
「……おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
出来る事ならば早く休んでもらいたい、坑道での出来事を考えればこの思いは自然なモノだろう。
だが彼はそうじゃない。言えぬ何かをたった一人で背負って、苦しんでいる。
まるで彼女の様に。
「……女々しい……」
踏み込む事を恐れて、まるで成長していない、そう己を嘲笑った。