モンスターの襲撃もなく、やや遠回りなるも比較的安全な道を進んだ事で目立った障害にぶつかる事も無く、彼等は泉のすぐ傍に立てられた山小屋の前に到着した。
日が大分傾いた事で気温が下がり肌寒さを覚えるが、皆小屋に入ろうとしなかった。理由は簡単、エミリオもジョブスも躊躇っているからであり、実際此処までの道中に何度も溜め息を吐いている。
「ホント、何なんだろうなアイツは……」
「ファンサービスってヤツでしょ……」
「人類全員ファンというわけではないとあれほど……」
「総帥だってファンクラブあるじゃないですか」
ジョブスの指摘にエミリオは横目で睨み付けた。
「許可した覚えは無いんだが」
「そりゃ非公式ですから、ウチの部隊に居ましてねー、総帥のファンが。どうです総帥も、ファンサービス」
「お前が結婚するのと同じくらいに有り得ないな」
「ねぇどういう意味? それどういう意味? 俺泣いていい?」
などという茶番を若者達の視線を受けながら一通り行った後、ジョブスは漸く小屋の扉を開ける。そのまま彼を先導に入った小屋の中は、それは個性的な物だった。
「え……これって……」
「うわぁ……なるほど……」
「す、凄いわね……」
「…………」
大体同じ反応を見せた若者達に、ジョブスが分かりきっている答えを明かす。
「見ての通り、コングマン仕様でございます」
「暑苦しいわ!!」
ロニが力一杯のツッコミを繰り出す。
先ず目に入るのは恐らく等身大であろうコングマンのそれぞれデザインが違うポスターが数枚、その側にはレプリカに違いないチャンピオンベルト。そのまた側には何故か筋トレグッズが置いてあった。
当然ちゃんと簡易的な暖炉もあるのだが、近くに積まれている木箱にはよく見るとコングマンの焼き印がある。他にも細々とコングマンの気配があるが、一々確認する気力は無かった。
「何なんですかコレ!」
「見ての通りだ」
「此処まで死んだエミリオさんの目見たこと無い!」
ツッコミしかしていないロニに、溜め息が深いエミリオは説明する。
「コングマンもこの辺りの調査開発に加わっていてな、その流れで奴が私財で山小屋の管理を買って出たのだがな……」
「ボランティア故の要らぬファンサービス……」
「コングマンに憧れて山奥で修行する奴が使うと聞いたがな……流石チャンピオンというか……私もよくもまあ今まで忘れていたものだ……いや、敢えて頭がそうさせていたのか……」
細く長い溜め息を吐きながらエミリオが木箱から火打ち石を取り出し暖炉の準備を始めると、それを見たカイルが何とも言えない表情でポスターを見ていたユダに声を掛けた。
「ユダ、ソーサラーリング、だっけ? アレで火って点けられない?」
「……ほら、好きに使え」
懐から出した指輪を手渡すと、カイルは笑顔で礼を言い今度はエミリオに駆け寄る。
「エミリオさん、これユダの」
「これは……ソーサラーリングか?」
「うん、これならすぐ火が点くよね?」
「……ああ、そうだな」
一般的には流通していない筈のその指輪を受け取った。そして、横目で指輪の持ち主を確認する。