「どうした」
「……アンタが何か言いたそうにしていたからな」
「なるほど、良い洞察力だな」
薄く笑みを浮かべたエミリオは、それを崩さずに告げる。
「地下での事を聞いた、戦闘時お前には後衛に居てもらうが……構わないな?」
やや言葉に力を込め“命令”をするとユダは視線だけを床に落とした。
その様子から拒否に対する言葉をエミリオは選んでいたが、青年は視線を上げつつ彼の予想を覆す。
「分かった」
「……そうか」
内心驚いてしまったのは、やはり“彼女”と重ねているからなのか。
動揺を悟られぬようすぐに次の確認を行った。
「それと、お前が希望すればなんだがノイシュタットで医者を紹介する事も出来るが」
今度は視線の位置は変わらず、返答も速い。
「必要無い。アンタが紹介する医者なら優秀なのだろうが、……自分の身体の事は僕自身がよく分かっている」
説得の余地が無い事は一度は外すも敢えて再び合わせてきた眼で分かった。ならば諦めるしかないとエミリオは追及せず引き下がる。
「お前には医術の心得があったな。……だから、医療の観点から自分ではどうにも出来ないと判断したらすぐに言え、分かったな」
「……分かった」
頷きはするがそれは何処か弱々しい。己の身体への不安か、それともエミリオに対する反抗心か、それともまた別の何かなのか判断は出来ないが注意を払う理由にするには充分だった。
様子を見ていたカイルが心配そうにユダへ声を掛ける。
「無理しないでね、何かあったら頼っていいからさ」
「……考えておく」
素っ気ない言葉がカイルは笑顔を見せ、リアラと顔を合わせ更にそれを明るくした。
笑顔に少し困惑の表情を浮かべていると今度はロニが溜め息と共に指摘する。
「エミリオさんの言う事なら聞くわけな……俺が言っても全然だってのに」
「お前の言う事に同意するのは癪に障る」
「おまっ……!」
鼻で笑うという挑発行為に詰め寄ろうとしたロニだったが、すぐに冷静になり咳払いをしながら言葉を返した。
「ま、まあ? エミリオさんが相手じゃ仕方ないよな? なんてったってエミリオさんだし?」
「人の背中に隠れるような男の言葉はとてもとても、前線任せられるか」
「あー……」
「それもそうね……」
困った様子のカイルとリアラがユダの味方をした現実にロニはショックを受け部屋の隅で体育座りを始めてしまう。二人は慌てて駆け寄り彼を宥めるが、何故かジョブスは腕を組み感心していた。
「見事なしょげ方……なかなか真似出来ないな」
「酔ったお前あんな感じだぞ」
「えっ」
「しかも絡み酒。悪かったな、この間鬱陶しくてつい締め上げてしまった」
突然突き付けられた衝撃的な話に分かりやすく動揺し、そしてそれが嘘でないと確信したのか彼もロニの対角に体育座りをする。違いがあるとすれば、宥めてくれる者が居ない事か。
「アレが七将軍候補なのだからな……世の中どうなっているんだか」
「……アンタの方がよっぽどそれっぽいが」
小さい声、だが内容からして伝わるようにしたその言葉をエミリオはのどの奥で小さく笑う。
「生憎、器用な方ではなくてな」
「……そう」
短く、感情の見えない言葉だったが、それを発した口元はには確かに小さな笑みがあった。
含みや嘲笑などではない、そう思えるそれが、懐かしく感じてしまうそれが、そこにあった。