彼女は眼を覚ました。
見慣れぬ天井、覚えのある空気。背中の下は柔らかく、ベッドか何かだろうと朧気な意識の中で考えた。
「眼が覚めましたか」
聞き慣れぬ女の声。穏やかでありながら、何処か虚ろなモノを感じさせる。
声の主は、すぐに視界の中に現れ彼女を曇りの無い眼で見下ろした。
「私はエルレイン、絶対神フォルトゥナに仕える者……貴女をこの世に呼び戻した者」
「呼び……戻す……?」
「貴女は再び“生”を手にしたのです、貴女の“幸せ”を手に入れる為に」
「…………」
エルレインと名乗った女は微笑を浮かべ続ける。
「私ならば貴女の望みを叶えてあげられます。悲劇の運命を、貴女が望む幸福に塗り替える事が出来ます。貴女は救われるべき……裏切り者で在り続ける必要は無いのです」
まるで幼子に優しく語り掛けるかの様な言葉。
意識が不安定な状態であっても、彼女にはそれが不快に思えて仕方なかった。
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bkm
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