意外な一面を見た後は特に意味があるわけでもない会話を続けた。
この中でリアラが一番食い付いたのはノイシュタットの名物について。
「期間限定のアイスキャンディー、ですか」
「ああ毎年変わってな、去年は抹茶だったが……確か今年はさくら味だったか」
「さくら味……?」
桜という植物は知っている、しかしそれを食べるというイメージが浮かばない。
どんな物か訊こうとしたリアラだが、エミリオの目が遠い事に気付き質問を飲み込んだ。
「……エミリオさん?」
「……ああ、すまん、少し昔の事を思い出してな」
我に返った彼はサンドイッチを頬張る。それが何故かリアラはこれ以上踏み込むなというサインに感じた。
「まあ、なんだ、食って損は無いという事だ」
「じゃあ、時間があったら」
素直に頷きサンドイッチを食べきると、何処からか鈍い音が聞こえ始めた。まさかモンスターがと不安になりながら身構えるリアラの傍でエミリオが警戒する。
音は次第に大きくなっていき何時でも動ける様に二人は腰を上げた数秒後、室内の機器から駆動音が聞こえた。
「これは……地下の方が上手くいった、か?」
機械には明るくない為断定が出来ずエミリオはゆっくりと部屋を見渡す。リアラは期待を宿した目で同じ事をする。
数十秒の重い沈黙を破ったのは、待ち望んでいた光だった。
「わぁ……点いた」
「警戒して損したな」
そうは言いつつ警戒は解かずライトを消した彼は、小さなライトが点滅している機械に近寄りそれを観察する。
「何か、ありましたか?」
「いや、さっぱり分からんな」
今度は天井の明かりを見上げ、静かに言った。
「レンズが使われていた頃は、もっと楽に明かりが点いていたな」
「そうなんですか?」
「ああ、とても便利で、楽で、どうなっているのだろうとか考える必要も無かった」
小さな溜め息が溢れる。
「だが18年前、その便利な力の恐ろしさを知った。闇に閉ざされた時はそう長くはなかったが、あんな物を体験してはレンズに頼る気にはならない。事実、あの後暗闇がダメになった者が続出したからな」
それはつまりトラウマ。世界が閉ざされるなどというとんでもない未曾有の出来事、心に傷を負わない方が難しいだろう。
エミリオもそうなのだろうかと思ったリアラだが、すぐに彼のトラウマの対象を思い出し考えを正す。それは彼にとって、世界の絶望を越える“闇”だったのだろうか。
「……ユダには気付かれたかもしれんな」
「えっ?」
「私に此所に残れと言ったのはアイツだったろう」
「……確かに、そうでしたね」
もしもそうなら、彼なりのやさしさだったのか、単にじゃまなだけだったのか。訊いても答えてはくりないだろう。
優しさ、合理的な判断、リアラの脳裏に船での出来事が過る。
「……心遣いだったら、嬉しいですね」
「……そうだな」