信じていた誰かに裏切られる、それが心にどれだけ大きな傷を残すのかリアラには分からなかったが、彼が今も“何か”に苦しんでいる事は理解出来た。
「エミリオさんって、凄いですね」
「どうした急に」
「えっと、その、やっぱり大人だなって……私、全然駄目で……悩んでばっかりで、なかなか前に進めなくて」
「……悩めばいいだろう。いざという時の決断さえ間違えなければ、それは悪い事ではない筈だ」
軽く告げられる重い言葉。
かつて決断の時があったのだろう、彼には。
「決断……その時が来たら……私は……」
眼を閉じる少女にエミリオは様々なモノを感じていた。焦り、迷い、不安、羨望、どれも一朝一夕では片付けられないモノばかり。
そして軽視出来ない、恐れるべき強大な力。
「……何か、分かればいいな……」
その呟きはウッドロウに会うという希望に対するモノだろう。強大な力を持ちながら彼女は何を望むのか。
一瞬、18年前の男を思い出し額に手を置いた時、リアラの方から小さくもハッキリそれは聞こえた。
「…………」
「……気にするな」
「は……はい……」
腹部を押さえ彼女は俯いている。
エミリオは側に置いている荷物から弁当箱を出し、その中からサンドイッチを手に取りリアラに差し出した。
「えっ、あ、いや、だ、大丈夫ですっ」
「アイツ等が何時戻ってくるか分からないんだ、遠慮するな。それに、“いざという時”にすぐ動ける様にはしておかないといけないからな」
そう言って逆の手で新たなサンドイッチを取り出しエミリオは躊躇いなく自分の中の口に運んだ。
言われ、実行され、その上で断る勇気は持っていないリアラはサンドイッチを受け取りやや小さな口で食した。
「あ、美味しい。チーズと、レタスとハムですね」
「下手に手が込んでいる物より、やはりこういうシンプルな物がいいな、食いやすい」
「そうですね、旅の途中なら尚更ですね」
「食いながら仕事がしやすい」
まさかの言葉に一瞬押し黙った後、リアラは訊く。
「怒られ、ませんか?」
「凄く怒られる。……家で敢えて片手間で食える物が出される辺り、相当腹に据えかねているんだろう」
果たして彼の溜め息にはどんな意味が籠められているのか。