対してエミリオはこれが世の常識とばかりに言葉を並べる。
「だってそうだろう? 信じるも信じないも信じてほしいのも、自分へのメリットがあるからだ。相手を信じ信じられれば心が満たされる、信じなければ……例え裏切られたとしても、心が傷付かずに済む。実に合理的で、自己満足に満ちていると思わないか?」
笑う、何かを嘲り彼は笑う。確かにそうかもしれない、ならば何故彼はこんなにも、他人が分かってしまう程に哀しみに満ちているのだろうか。
もしや、とリアラは気付くが、それを口には出さなかった。
「私……自己満足でも、カイルを信じたい、です……心の底から……カイルがしてくれるみたいに」
「ならそう思い込めばいい、自分は彼を信じているのだと、それは揺るぎないモノなのだと。心に言い聞かせて、見あった行動を取ればいい」
「そんな……」
それは果たして正しいのだろうか。そう意見するよりも速くエミリオは正しさを説いた。
「心に浮かんだ感情はそう簡単には覆せない、良くないモノなら尚更な。だったら無理矢理思い込ませるしかないんだ、心がそうだと納得するまで。現実逃避と言ったら更に聞こえは悪いが、それで前を向けるキッカケになれるなら悪くはない話だろう」
「……難しい、ですよね、それは」
「ああ、目に見えない心を従わせようと言うんだ、それなりにリスクはあるだろう、心が反発して己が見えなくなったりな。端的に言えば……自暴自棄か」
それなりどころのリスクではないのだろうかと思う一方で、頭の何処かで彼の話が繰り返される。
「自分と他の人達を騙す、という事ですよね?」
「本当にしてしまえば何も問題は無い、嘘も方便という言葉もあるしな」
「……便利な言葉ですね」
「便利な物は多様すべきだ、わざわざ苦労を被る必要は無い。……自分がそう望むのなら別だが」
意地悪な笑みは何時もの彼、それが一層先程の悲しみを際立たせた。