無自覚なのが恐ろしいと笑っていると、短く大きめの駆動音の後水車が再び回り始める。その数秒後点いていなかった明かりがしっかりと光を放つ。
「わぁ、点いた!」
「ほうほう見事なもんだ」
作業を終えた二人は下流側で手を洗っている。労いの言葉を掛けようとジョブスとカイルが歩み寄るが、二人はまた何か言い争っていた。
「だから、礼を言うなら普通に言えばいいだろ。なんで余計な一言付けんだよ」
「そんなの受け取る側の問題だろう」
「お前の場合はわざと神経逆撫でてるようにしか聞こえねェんだよ」
「お前がそう思うならそうなんだろう」
何があったのかはこのやり取りですぐに察する事が出来る。
目を合わさずにいなされ正しく神経を逆撫でされてロニは、目尻を引きつらせつつ感情を抑え込んでいた。
「まあ、やっぱり喧嘩する程仲が良いとは言うじゃん?」
楽しげなジョブスのフォローに対し先に反応したのはハンカチで手を洗っている拭くロニ。
「こんなのより綺麗なお姉さんと仲良くなりたいですね」
「そっかー、でも女と喧嘩する時は腹を切るぐらいの覚悟が無いと駄目だぞ青年。他に男作ったのは向こうなのに何で此方が囲まれて責められるんだか……外堀って大事だよホント」
笑いながらとんでもない事を言う軍人に青年は何と反したらいいか分からず、既に渇いている手を拭き続ける。ユダも同様なのか目を合わせまいと視線を泳がせた。
唯一カイルだけはよく分かっていないらしく首を傾げていた。
「えーと、ジョブスさんは昔何かあったの?」
「あったあった、カイル君はもう少し歳を重ねたら分かるだろうよ。さて、今更ながら首尾は上々?」
「あ、ああ、問題無い」
頷くユダに不自然に上機嫌なジョブスは右手を高々と上げる。
「よーし、じゃあさっさと戻ろうぜ。総帥城が首を長ーくして待ってるからな、あと弁当も」
「そうだ忘れてた! 早く戻らないとエミリオさんとリアラがお腹空かせちゃうね」
カイルも同じく右手を上げ、来た道を戻るジョブスを追う。ロニとユダはやや遅れて同時に歩き出し、二人で人生経験が豊富な背中を見た。
「ジョブスさん、マジで苦労してるな……」
「……そうだな」
来た時よりも明るい洞窟は、何故か来た時よりも暗く感じた。