四人は機械音を発する水車に近付き、エネルギーを生んでいる筈の回転を見つめた。
「パッと見は問題無さそうだけどな、ちゃんと回ってるし。ユダ君、何か分かる」
「……静かにしてろ」
一つ息を整えユダは先程と同じ様に数秒下流に触れ、それから改めて水車を見る。他の者はモンスターに警戒しつつ彼の行動を見守った。
「この大きさにしては少し抵抗が……」
何かを感じ取ったらしい呟きと共に今度は機械の部分に触れて首を傾げ、触れた場所に耳を当てる。
彼の耳には何が聞こえているのだろう、待つ者達に耳を離したユダが待望の答えを与えた。
「空回りしているな、中で歯車か何かが外れたんだろう」
「あー……なーるほどな、そりゃ元気に回っても意味無いわな。どうよ、直せる?」
「外れてるだけならそう時間は掛からないが……」
外れている以上の事が起きていたら当然そうもいかなくなる。工具を取り出し制御盤を暫し見つめた彼は、水車の様子を見ながらボタンを押していく。
「風車の時もだけど、音だけで分かるって凄いなー」
「整備士には必要なスキルらしいな、エミリオさんのトコに居た時に聞いた事がある」
カイルの小声での感心にロニが知識を加えると、少年は何か閃いたのか目を輝かせた。
「ユダってもしかして、凄い博士かな? 晶術の扱い上手いし、機械に詳しいし」
「いくらなんでも短絡的過ぎだろ……」
彼らしい単純明快な意見につい失笑していると水車が少し軋みながら動きを止める。完全に停止したのを確認しユダは軍手を嵌め身の丈半分程の大きさの金属カバーのネジを外し始めた。
「ユダ、俺手つだ……」
手慣れているとはいえ一人での作業は大変だろうとカイルが一歩踏み出すがロニが肩を掴み止める。思わず彼を見ると、そこにあったのは頼もしい笑顔だった。
「こういうのは俺の方が慣れてるだろ?」
確かにそうだ、とカイルは踏み出した一歩を退く。
ロニはユダの隣に立つと別の軍手を付け全てのネジが外れた金属カバーを持った。
「二人でやった方が速いだろ、こんなトコ長居したくないし」
「……お前にしては賢明な判断だ」
「ホント憎まれ口ばっかだなお前……」
「ぐだぐだ言ってないでとっととそれを外せ」
言わせてるのはお前だ、とは敢えて口には出さず指示通りの行動をする。カバーが外れライトで照らされたそこは駆動部らしく歯車やチェーン等のパーツが目立ち、普段の整備の具合が窺い知れる程にそれら一つ一つが綺麗な物だった。
「で、どっか外れてるんだっけ?」
「だと思うんだがな……」
ライトで手前から奥までゆっくりと確認する。しかし一目見て分かる異常は見つからないと分かった途端ユダは、上半身を駆動部に突っ込み再度確認を始めた。
綺麗とはいえ機械油だらけで、もしも何かの拍子に動き出してしまったら大怪我では済まないそこに躊躇い無く体を入れる彼にロニは少々驚きつつ、そのもしもの時に備えながら終わるのを待つ。
「あ」
「ど、どうした?」
短い肥えに焦ると頭を出したユダがヒライタ手を差し出す。そこにあるのは、親指の冷た程の大きさの歯車とナットだった。
「ちっさ……」
「小さくても部品は部品だ」
「それは分かるけどよ……よく見つけたな」
「見つけなければ此処まで来た意味が無いだろう」
至極真っ当な意見を返すユダは何処か不思議そうに目の前の青年を見ている。その様子が何だか疑問を持った子供の様に見えたロニは妙な感覚を覚えつつ歯車とナットを持ち上げた。
「特に欠けてるわけではないみたいだな……何処のかは分かってるのか?」
「ああ……だが、周りを少し外さないと手が入らない」
「そりゃまた面倒な……」
「分かったら中の軸を支えろ、さっさと終わらせる」
相手に拒否権を与えない命令、しかし今回は素直にロニは従えた。“子供”に見えたせいなのかは分からないが。