地下水脈に相応しくそこは耳を澄まさずとも水が落ちる音が聞こえ、冷気が身体を包む。地下故に太陽の恩恵は受けられないが坑道内と同じ作りだが役目を充分に果たしている明かりがあり、その上霧が無いので比べるまでもなく視界は良好だった。
「うわー寒いや」
今度は足を滑らせずに降りたカイルは上との温度差に身体を震わせる。他の三人も身体を解しつつ辺りを警戒していた。
「やだねぇ寒いのは、歳重ねると余計そう思う」
「ジョブスさんまだまだ若いじゃないですか」
「ロニ君よ、今の内だぜ薄着出来るのは」
屈伸しながらのその言葉に何やら悲哀を感じ少々戦くロニだが、天井を見上げるユダに気付き咄嗟に持ち直す。
「どうした?」
「……べつに、お前が気にするような事は何も無い」
「はいはい、そうかよ」
何時も通りの冷たい返答と共にユダは視線をこれから進む洞窟の先に向けた。明かりが彩るのは一本道ではではなく所々に曲がり角があり、そう複雑な構造ではない為迷子にこそならないだろうが道を知らなければ易々と目的地には辿り着けないだろう。
「一応もう一回言っとくけど、晶術の使い方は注意しろよ?」
「だってよカイル」
「ロニもだろ? 俺は大丈夫、エミリオさんに特訓してもらったんだから」
誇らしいのか胸を張り断言するカイルのその姿は子供らしくもあり、何処か逞しさも見える。先の戦闘を踏まえると、やはりあの村での出来事が彼に何かしらの良い変化を与えたのかもしれない。
しかしそれでも、ユダの言葉は冷ややかだった。
「そう調子に乗って、生き埋めなんぞになっても知らんぞ」
「そうならないように気を付けるってば。それに何かあったら俺がユダを助けるから!」
「……くだらない」
静かにその一言だけを返しユダは奥へと足を進め、ジョブスは溜め息混じりに笑いながらそれを追う。当然カイルとロニも着いていくのだが、カイルはユダの背中を見て首を傾げていた。
「何だよ難しい顔して」
「うーん……何かユダ、変じゃない?」
「アイツは何時も変だろ」
「そういう事じゃなくてさ、何ていうか……」
言葉が見つからない彼は腕を組み悩む。その顔は非常に真剣でだったのだが、水でも足音でもない音を耳にし剣の柄を握った。
「ロニ!」
「分かってるって!」
他の者も戦闘体勢に入り、目と耳に出来るだけ神経を集中させ異音の正体を探す。
「……上だな」
ナイフを抜いたユダが呟いた瞬間に言葉通り頭上からやや小振りの蝙蝠型のモンスターの群れが襲い掛かった。
柔らかい人の二区を狙う凶暴な牙を避け、カイルは攻撃的後の一瞬の隙を突き真っ二つに斬り裂く。ロニも動きを合わせカイルの背後を取ろうとするモンスターを叩き落とした。
「へっ、大したことねェな!」
「そういうのは終わってから言いなってな!」
モンスターに囲まれるジョブスは右足を軸に回転するようにして敵を薙ぎ払う。それはただ訓練しただけでは出来ない、実戦に慣れているからこその動き。
ユダも相変わらず動きが軽くリーチの短いナイフでも確実にモンスターを倒していき、数が減ったのを見計らい詠唱を開始した。
「ネガティブゲイト!」
術者を中心に展開された亜空間は残ったモンスターだけを巻き込み殲滅する。一匹逃れたモンスターが居たが、術が終わったのと同時にカイルの手で倒され戦闘は終了した。