霧に暗闇、暴風なんのその、力強い足取りを先頭に進む眼前にモンスター等は現れないまま一行は無事に目的地である鉄の扉の前に到着した。道中の坑道内の明かりはやはり無いと同然であり、扉の向こうから機械音は聞こえるものの扉の小窓から見える筈の光も見えない。

 少々錆のあるそれをジョブスが照らしながら金属が軋む音と共に開ける。中に霧は無く、非常用のライトが標となっている暗闇の中で動力室の名に相応しく鉄床の広い部屋に機械が並ぶ様と奥にある別の扉が確認出来た。


「うわぁ、凄いね。これ全部坑道の明かりの為の物?」

「いや、他にも機器の維持の為に霧等を発生させない物や、エネルギー研究の為の物がある。レンズ技術が撤廃されて以降、レンズ技術が展開され下火になった自然エネルギーの研究が再燃したからな。レンズに使用していた技術を自然に活かせないか試しているわけだ」


 ユダへの説明も兼ねて答えれば、感心が返ってくる。

「へぇ、こういう難しい事が出来る人って凄いなぁ」

「転んでもただでは起きないなのご研究者の性というか何というか……常にこんな正しい科学ならいいんだがな」


 カイルでも無闇に触れない機器を部屋を見渡していたユダは何の躊躇いも無く触れ、ジョブスのライトを頼りにして操作を始めた。その姿にエミリオは自分がよく知る研究者を思い出す。


「科学に悪い事ってあるの?」


 何気無い甥の疑問が妙に頭の中で響いた。


「……いや、科学自体に善悪は無いな」


 テンポ良くボタンを押す音と鈍く低い駆動音が聞こえる。


「敢えて善悪の区別をつけるとしたら、科学を行使する人間の心の方だろう」


 なら“彼女”は悪だったのだろうか、そんな己の疑問を心で彼は一蹴した。

 視線を壁に向けるとガラス戸の金属棚があり、中に様々な工具や予備のケーブル等が置かれているのを見る。中身はともかく棚は少し古さが感じられ此所が完成してからの年月の証明となっていた。


「しかし悲しいかな、科学が一番発展するのは何時だって危機が迫った時だ」

「危機?」

「ああ、千年前しかり、18年前しかり、な」


 自嘲気味に笑ってからエミリオは手を止めているユダに声を掛けた。

「何とかなりそうか?」

「さてな……コントロールに問題は無そうだが全体のエネルギー効率が……となると、原因は外か下か……抵抗を考えてか総合値しか表情されないし……」


 外か下、それはつまりエネルギーの元である風と水の事だろう。彼はどうやら大元に暗闇の原因があると睨んでいるらしい。


「外はそこの扉から行ける。地下は確か……」


 奥の扉を指した後エミリオは床を見渡し、扉とは反対の方にあった取っ手を握り持ち上げた。やはり古い金属の音がし、現れた穴から冷たい空気が足に当たる。

 人が通るには充分な大きさのその穴をジョブスが照らせば岩壁の地下に続く鉄梯子が見え、奥に人工の物であろう光が見えた。


「この先だな。地下は明かりの動力は弱くはあるが独立させているケーブルがあるから調べる分には問題無いだろう。多少モンスターは出るだろうが」

「そう……じゃあ、外から確認するか」


 そう決めたユダは返事を受け取る前に棚に置いてある工具が入ったウエストポーチ持ち奥の扉を開けた。カイルとリアラは彼に続き、その後ろをロニが追う。

 特におかしな事は無い、だが目が闇に慣れた現状を考えれば先に開いた地下を先に調べるのではないだろうか。彼の様な冷静沈着な人物であれば尚更と、エミリオは思う。


「ま、こんな危なそうな地下は後回しにしたいよなァ、ずっと暗いトコ歩いてきたんだし」


 同じ考えを抱いていたらしいジョブスは地下への入口を閉じ、我に返ったエミリオの背中を押し外へ向かう。


「……確かに、そうだな」


 考え過ぎ、それだけの事。

 自分が“それ”だから、つい考えてしまう、それだけの事なのだ。


「お日様浴びてリフレッシュしましょー、まあ霧なんだけど」

「マリアンと同じ事言うんだな」

「総帥がデスクワークし過ぎだからでしょ」


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bkm

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