憂鬱その物の表情と、一瞬たりとも誰かの傍を離れたくない青白い顔を連れて一行はエミリオが持つ地図を頼りに動力室へと向かい闇と霧の中を進む。
「うわー……すっごいひんやりする」
「霊が出るだのなんだのこの冷気も一因だな」
「そうなの?」
「ああ、霊の周りは気温が低くなるだとか何とか。……そういえば、以前神団に捕まった時地下水路から脱出したと言ってなかったか?」
問いに対しカイルが頷くとエミリオは首を傾げた。
「その時も今と似た状況だったのでは」
「あー……確かに」
彼が言わんとしている事を察した少年は、憂鬱な肩を掴み歩く震える兄を見る。
「……多分、俺達しか居なかったから頑張ったんじゃないかな」
「なるほどな……アイツも大変だな」
確かに頑張ったのだろう、身元の分からない謎の男を警戒する為に。
「ユダも大変だね」
「ああ」
今も信用しきっているわけではないだろう、わざわざ彼の後ろを取るのだから。
「まあ怖いのも確かだろうが……」
「エミリオさん?」
「難儀なものだと思ってな、ロニとユダは相性が良いわけじゃないだろう?」
「あー……うーん、そうかな?」
珍しくエミリオに対して反論するカイルは、何の疑問も抱かずそれを言った。
「ロニとユダって結構気が合うと思うよ、俺は」
「それはまた、どうして」
内心驚く叔父に少年は笑顔を見せる。
「だって二人共優しくて、自分より周りを大事に思ってるからさ」
「……ロニは分かるが、ユダもか?」
「うん」
頷く彼には己の考えに対する疑問は微塵にも無い、父親と同じように。
「ユダは優しいよ、確かに秘密は多いけど」
「そうか……それがお前の考えなら私は否定しないさ」
理由は特に無いだろう、本人がそう思ったからそれを口に出しているだけ。裏も表も無い、危なっかしくも羨ましい心根。
「総帥総帥」
「うん?」
ジョブスに呼ばれて足を止めて意識をそちらに向けると、彼はリアラと共に後ろを指差していた。何となく予想はつく出来事を想像しながらカイルと一緒に振り向けば、やはり予想通りだった。
「むりむりむりむりむり、無理だって……! いいい今変な影が……!」
「………………」
背中に隠れ縮こまる青年と、背中に隠れられ無表情で眉間にシワを作る青年。どちらも色んな意味で限界が来ている様だった。
これ以上は無理だとわざわざ考えなくても分かる判断を下しエミリオは二人に近寄り縮こまっている方に告げる。
「ロニ、実はノイシュタットに居るオベロン社の受付嬢に男を紹介してやってくれと頼まれていてな……」
それで顔を上げてしまうのがロニの性なのか。
「歳は」
「お前の二つ上、貴族と縁を持つ器量良しだ」
「さあ行きましょう! はい行きましょう!」
同一人物かと疑いたくなる程に溌剌とした彼は頼もしい背中で先頭に立つ。ユダの目は非常に冷ややかだが荷物が無くなったからか何も言わず息を吐き、その肩に今度はジョブスが慰めの手を置いた。
「カイル! 俺についてこい!」
「う、うん!」
応えてあげるカイルは本当に優しい。
それを見てリアラは呟く。
「カイルも結構大人なのね……」
本当にその通りだと、本人達を除く皆は同意した。