「……及第点だな」
「だから厳しいですって」
「お前だったらもっと速くカタが着くだろう」
「はいはい、お褒めに与り光栄ですよ」
溜め息と共にジョブスが剣を収めると、風の刃はとロニが胸を撫で下ろすリアラに駆け寄り賛辞を贈った。
「凄いよリアラ! バッチリだったね!」
「わ、私はカイルの指示に従っただけだから……」
「いやいや、それを実行するのが難しいんだから、もっと得意気にしていいんだぜ?」
「そ、そうかな……?」
2人の言葉が嬉しいのかリアラは俯きながらも笑みを浮かべている。
和やかな雰囲気ではあるが此所は霧の坑道、エミリオは警戒しつつ懐からライトを出し壁の上部を照らした。そこには壁を這うケーブルと、それに繋がれ弱々しい光を点す球体ガラスがあった。
「……弱いな」
「手持ちの光源で此処を抜けろと?」
「想定はしてあっただろう。この坑道を抜けるだけなら装備は充分だ」
「でも定期点検がされたのって半月前くらいじゃないですか」
ジョブスの不満を無視しライトでケーブルを辿るようにして歩を進めた彼は同じ状態の球体ガラスを見つける。更に奥に目を凝らせば近くになら点の光を見つけられるが、霧の中でなくともこれでは無い物と同じだろう。
「此処を通る人間は殆ど居ないんだ、最近点検されたからというのは甘い考えだろう」
「そうですけどー」
「……まあ、気持ちは分かるがな。私達だけならともかくこの人数だ」
そう呟きながらライトのエネルギー残量を確認する隣で何時もの明るい声が上がった。
「俺は平気だよエミリオさんっ、こういう所初めてじゃないから!」
「……それは、神団に捕まった時と神殿に忍び込んだ時の話か?」
「うん!」
よくもまあ笑顔で頷けるものだと普通ならば思う所なのだが、彼の父親を知る者からすれば納得するのが普通。
だから、ユダが溜め息を吐くのも普通だろう。
「あ、でもリアラは大丈夫?」
「えっ、う、うん……一人じゃないから平気」
「そっか、よかった」
「うん。……あ、あの、エミリオさん」
呼ばれたエミリオが顔を向けるとリアラがペンダントに触れながら意見を述べた。
「あの、晶術で灯りを作って進むのはどうでしょうか。こう、火の玉を作ったりとかして……そうすれば、もっと安全に進めるかも……」
「え、晶術ってそういう事も出来るの?」
晶術は攻撃の為の手段、それが常識である故のカイルの疑問に答えのはエミリオ。
「出来なくはないだろう。だがこの中で出来るのはリアラくらいだろうし、その間体力は削れる。そして此処での戦闘の要もリアラ……灯りを作ったまま攻撃に転じる事は出来るか?」
「それは……あ、じゃあ松明はどうですか?」
「確かにそれなら体力も使わないし、灯りを確保したまま攻撃出来るんだが」
だが、それから先を告げる前に坑道の奥から突風が吹き抜けた。長い風ではなかったがその強さは翔ばされぬように反射的に身構える程であり、同時にエミリオが言いたい事を代わりに皆へ伝えていた。
「まあ……こういった事だ」
「はい……消えますね、松明」
「そう頻繁な風ではないんだが、過去に動物避けにした篝火がオイルに引火してちょっとした事故がな」
「……ちょっと、なんですよね?」
確認には微笑が返された、後ろのジョブスは露骨に目を逸らす。あまり掘り下げてはいけない話題なのだとリアラは賢明な判断を降した、カイルは相変わらず何なのか分かっていないようだが。
そんな大人の憂いの傍でロニは一人口を閉ざしていた。顔色は悪く、微かに身体も震えている涸れに声を掛けるのはユダ。
「おい」
「な、ななななななな何だ!? 俺はビビってなんかないぞ! 人の悲鳴なんて聞いてないし聞こえてない!!」
覚えのある反応への対応は当然呆れ混じりの冷ややかな態度であり、周りも似たような目で見守る。
「僕は何も言っていない」
「きゅ、急に声掛けんな! 学べよ!」
「お前が学べ、隙を作る方が悪い。……ま、風が悲鳴に聞こえるようなオツムじゃあ仕方ないか」
「なっ、あ、アホな事言ってんじゃねェ! お、俺ァただ、ゆ、幽霊の正体見たりと……」
そこで謀ったかの様に起きる突風、強がりは青年を盾にした。
「…………お前帰ったら」
「カイルの兄貴である俺が換えれるわけねェだろ!」
と、盾にしたまま反論するが説得力なんてあるわけがない、顔も青い。
「カイル……ロニって……」
「うーん……昔孤児院の皆で肝試しやった時、ロニだけはぐれてさ……その時に、捜しに行った母さんを幽霊に見間違えて……」
「それが、トラウマに……」
「うん……」
兄としての伊地とトラウマ、その間でもがくその姿は色んな意味で悲哀に満ちていた。
そんな彼に対して文句を無視しユダは言う。
「肩車をしろ」
「…………は?」