カイルとリリスを除く面々が揃ったリビングで彼等は両耳を塞いでいた。ユダは状況がよく分かっていなかったが、悟られぬように流れに従い耳に手を置く。
その数秒後轟音は響き、青年を無表情のまま茫然とさせた。その際“音響兵器”と彼が呟いた事に皆が心で同意する。
カイルが現れたのはそれから数分後のことだった。
「おっはよーございまーす!」
「元気だなァお前……ホント元気だ」
ロニの言葉は嫌味で間違いないが上機嫌のカイルに通じるわけがない。
「元気じゃなきゃ尾根越えは出来ないからね!」
「うん……そうだな……」
もう何も言う事は無いとロニは力無く笑った。
その間にリリスによって手早く朝食の準備が完了しており、まだ耳に余韻が残る中皆は席に着いた。
しかし、その余韻が吹き飛ぶ事がテーブルに起きていた。
「おい……リリス……」
「つい張り切っちゃった」
「ついの量じゃないぞ……」
ところ狭しに料理が並んでおり、明らかに朝食の量ではない。しかし若い男子の目は輝いている、それぞれの理由で。
「こんなにリリスさんの料理が食べられるなんて……俺は幸福者だ……!」
「もう、大袈裟なんだから」
「大袈裟なものですかっ、これなら尾根なんてひとっ飛びですよ!」
本当にやりそうだとはわざわざ口に出す必要は無い。
「まあ確かに食っとかないと駄目だよなァ、あの尾根を越えるってんだから。総帥もちゃんと食ってくださいよ? ただでさえほっそいんだから」
「必要な量はちゃんと食べている」
「その必要量が少ないんだってな……」
外見の印象から食べる方ではなく見え、実際の食事量も多くはない。だがそれでも彼の言う必要な量は適切らしく、それが原因で調子を崩すという事は無い。
「対してユダはわりとしっかり食うよな。てか、リリスの料理が気に入っちゃった感じ?」
黙々と食事を始める彼から返ってくるものは無かった。だがフォークを持つ手は止まらず、間違い無くエミリオよりも食事量は多い。
それを見たカイルは良い笑顔で言った。
「ユダ、リリスさんの料理が好きになったんだね」
やはり返ってくる詞は無いが、料理は口に運ばれていく。
無言の肯定と取れるそれの代わりにリアラがカイルに同意した。
「リリスさんの料理が嫌いなんて言う人居るかしら」
「愚問だな」
そう自信満々に言ってのけた青年は立ち上がる、頬にパンのカスを付けて。
「いくら世界が広いと言えど、千人居れば千人大好きだと言うに決まってる! 仮に居たとしたらこの俺が罰を降してくれるわ!」
「このドレッシング美味しいね」
「そうね、濃いのにサッパリしてるというか……」
「隠し味にリーネ産のリンゴを擦りおろしてるのよ」
ここまで無視されているのは同じ男として流石に哀れに思えてきたのか愚かにもジョブスが人生を謳歌している彼に声を掛ける。
「罰ってどんな罰よ」
「リリスさんの料理完食」
「君もわりと罰当たりじゃね?」