「やっぱりルーティとリリスのご飯って美味しいよなー、リオンもそう思うだろ?」
「ん? ああ、悪くない」
視界の端ではルーティとリリスに子供達がおかわりをせがんでいた。
「しかし気に入らんな、またお前に勝ち越されるとは」
「俺だってリオンに勝ち越されたままじゃ悔しいからな、ファンダリアに行った時ウッドロウさんと手合わせしたりしたんだよ」
「お前……一国の王を相手によくもまあ……」
「でもお前だって、ダリスさんと手合わせしたって聞いたけど」
図星を指されたのかエミリオは口に入れていた酒が危うく気道に入りそうになり軽く噎せる。
「ホント似た者同士よねアンタ達」
ルーティの指摘に、スタンに背中を擦られていた彼はテーブルに開けたばかりの酒瓶を置く姉を睨み付けた。
「……心外だな」
「一体何時まで手合わせやるつもりよ、お互いに立場があるんだからさー」
「そりゃあじいさんになるまで……いや、もっとかな……」
「コイツが私に頭を下げるまでだな」
つまり双方止める気は無い。当然ルーティからは溜め息が溢れる。
「コレがアタシの旦那と弟なんだもんねぇ……」
「自分は出来た妻だとでも言いたげだな」
「甲斐甲斐しくアンタ達の世話してるアタシは出来た妻でしょうが」
「甲斐甲斐しくねぇ……」
何か言いたげな弟、しかし姉はわざわざそれを買うような事はせず得意気な顔をしていた。
それでこの話は終わる筈だったのだが、頼んでもいない第三者が割って入る。
「ルーティは確かに良い奥さんだが、残念ながらリリスの方が良い奥さんだぞ!」
それに反論するのは当然スタン。
「リリスが良い奥さんなのは認めるけど、ルーティの方が凄いんだぞ」
「いいや、リリスの方が凄い!」
熱くなるのは必然だろう。
「ルーティだ!」
「リリスだ!」
姉と弟は呆れ果てる。
「なんて中身の無い争い……」
「お前の旦那だろう、なんとかしろ」
「アンタの親友でしょ、なんとかしなさいよ」
互いに責任を押し付けあう目の前で妹であり妻であるその人が夫達の間に立った、笑顔で。
「兄さんもバッカスも、楽しそうねぇ」
「リ、リリス……」
「お、おう、楽しく話してたんだ、はは……」
見事なまでに引きつった笑顔にリオンは素晴らしい笑顔を送った。
「食事中にやかましいわよ?」
「ご……」
「ごめんなさい……」
大の男2人を一言で黙らせるその姿は、間違いなく主婦である筈なのに姉弟には別の何かに見えて仕方ない。
「リーネって絶対戦闘民族か何かが拓いた村だと思うわ」
「否定出来んから恐ろしいな」
そう言って笑った、彼女も笑っている。傍では子供達が美味しそうにマーボーカレーを頬張っていた。
「子供の声を聞きながら酒を飲むのも悪くないな」
「なんか、オッサンみたいね」
「うるさい」
かれの両の目は、間違いなく“今”を見ていた。