「リアラちゃんは家事とかどうよ」
「わ、私は……実は、全然」
恥ずかしそうに答える隣でカイルが手を挙げた。
「俺は出来るよっ、掃除が一番得意なんだ!」
意外な一面にリアラは驚き感心するがすぐにそれは別のモノに変わった。
「掃除するといつの間にか落としてた小銭が見つかったりしてさ。だから母さんにいつも掃除はしっかりしなさいって言われてるんだ」
「そ、そうなんだ……」
嬉しそうな少年とは対照的に少女は少し複雑そうな顔をする。ロニやユダを除くほかの者は予想通りだと各々反応を見せた。
「遺伝かねェ……」
「フフッ、遺伝でしょうね」
「嫌な遺伝だな……」
サラダを食べるエミリオの溜め息は深いと同時に重く、叔父の苦労を嫌でも感じられる。
「総帥は割りと出来ますよね、餌が無くてもノーって言えないから」
「うるさい」
「で、その経験を商品開発に繋げる敏腕経営者」
「うるさいと言っているだろう」
開きもせず茶化す男を睨み、そして極々自然に彼は言う。
「それに、女性が困っていたら手を貸すのは当然の事だ」
自覚無く突き付けられた言葉にジョブスはパンを片手に項垂れた。一方カイルとリアラは尊敬の目でエミリオを見て彼を戸惑わせる。
「……なんだ」
「エミリオさんカッコイイなぁって思って」
「私も、男性の鑑だと思います」
「な、わ、私は当然の事を言っただけだ……」
裏の無い言葉だと分かっているからこそ返しが難しい。
ふと視界の隅でナニカガ動きそこに目を向けると、ユダが俯いているのに気付いた。微かにだが肩が震えているのが分かる、恐らくだが笑っている。
ついでにジョブスは現実に打ちのめされている。
「コレが出来る男との違い……!」
「ただのお人好しだと思うわよ? 朱に交じればなん何とやらってね」
何をリリスは朱と称したのか、当然彼には分かっている。だから取り敢えず何度目になったか分からない溜め息を吐いた、その視界の端ではロニがそれはそれは幸せそうにシチューを食べている。
その傍でカイルは言った。
「エミリオさんみたいな人を紳士って云うんでしょ? ロニも見習えばいいのにさ」
「ロニがエミリオさんみたいに?」
「うん、……うん……」
カイルとリアラの視線が泳ぐ、頭の中に浮かんでいるモノは恐らく同じだろう。今幸せそうな彼を哀れに思うエミリオは、仕方ない事だと彼等をそっとしておくことにした。
そして何時もの事だが全く会話に交わらない彼は、無言でリリスにシチューのおかわりを求めていた。
「若い子が沢山食べる姿って、見てると幸せな気分になるわね」
「……フン」
相変わらず愛想の無い態度だが、彼は皿を下げはせずそのままリリスに渡す。周りはそんな彼に声を掛け、適当にあしらわれ、そんな賑やかな食事が続く。
その光景が一瞬“過去”に見えてしまったエミリオは密かに己へ溜め息を吐いた。