そんな心配をされているとは知らない少年は説教から解放され叔父の隣に座った。表情は当然優れない。
「うー……リアラが母さんに見えた……」
「まだつまみ食いなんてしてるのかお前は」
「お、お腹空いて、匂いに釣られちゃって……」
「まったく……待つ事も大事な訓練だ、堪える事を覚えろ」
溜め息混じりにエミリオが忠告すると素直にカイルは頷く。しかし目は夕食に奪われており、その空腹具合が窺い知れた。
良くも悪くも子供、楽しそうな姿にジョブスは微笑みながら、また緩く肩を回すエミリオに問う。
「そいや総帥、リリスに頼まれて何を?」
嘉多の動きが心なしかぎこちなくなった。
「……クリームをな、作っていた」
「あー、プリンに乗っける為に」
「何だ、何か文句でもあるのか」
納得の言葉に対し目尻を引きつらせる甘党に慌てて首が横に振られた。
「いやいやいや、何故に文句あると思うのか逆に疑問だわ。そういう反応は肯定してるのと同じだって昔から言ってるじゃないですかー」
「……条件反射だ」
「こりゃもう治らんな」
バツの悪そうな顔をする甘党に諦めの溜め息を洩らすのと同時にユダを見ると、彼は未だ窓の向こうを見ていた。
だがそれはフリだと軍人である彼には分かる。その目は何も捉えておらず、意識は間違いなく会話に向いている。
彼らしいと言えば彼らしい、ただそう思うことにした。
「それじゃご飯にしましょうか、皆沢山食べてね」
準備を終え、リリスは皆が座ったのを見計らい腰を下ろした。
テーブルに並んだ料理は種類が豊富で彩りが良く、明日発つ者達の身体を考えている娘とがよく分かる。
「おームニエルとかまた洒落た物を」
「そういえばジョブスさんは自炊するのかしら」
「あー……料理が出来る嫁さん欲しいなぁ」
「あら、男性も料理が出来た方がモテると思うけど?」
サラダを取り分けなごらリリスが返すと大方の予想通りロニの目が輝いた。
「ですよね!? やっぱり男も家事が出来た方がポイント高いですよね!?」
「そうねー、妻が体調崩した時とか家事をしてくれると嬉しいわね。バッカスは元々ある程度出来ていたけど、結婚してからご近所の奥様方に自分からしごかれに行っていたわ」
主婦の言葉に努力が実ったとでも言うべきなのか、青年は天を仰いでいる。それにわざわざ触れないのがある意味では優しさなのかもしれない。