ジョブスとリリスが笑っていると、キッチンの方から肩を回しながらエミリオが現れる。表情は少し疲れており溜め息も吐いていた。
「あら、お疲れ様」
「ああお疲れだ……主婦は本当に凄いな」
「その主婦の声に耳を傾けてくれるからオベロン社の売上は上々なのよね」
「すぐ近くに主婦が居るからな……」
呟く目は何かを悟っている。それに対しジョブスが茶々を入れない筈がなかった。
「総帥の周りの主婦は強烈なのばっかですからねェ、主婦しながら使用人やって母親やるってマジ凄いわ。で、そん中で一番大変なのが使用人っていうね」
当然反論も起きる。
「……その息子に世話されてる奴が何言ってんだか」
「……スゲー親子ですよね」
「マリアンの息子じゃ仕方ないだろう」
どちらにしろ世話をされているいい大人の溜め息は大きい。それを横目で見ている視線に気付きながらエミリオはソファーに腰を下ろす。
テーブルに並べられた夕食は相変わらず良い匂いを生み食欲を掻き立てた。だがそれでもいい大人達の表情は優れない。
「彼女の子じゃなかったら執事志望なのに軍部で勉強なんかしませんよねェ……どっかの誰かさんの後押しもあったことだし?」
「あんな熱心に詰め寄られたらな」
「ええ、ええ、仕方ないですよねー、ウイルはノリノリで引き受けるしさー。未来の大将軍にしてみせますとか言ってたけど」
「……笑えん」
深い溜め息は更に疲れを生み、それは表情に表れる。だがそれを真面目に捉える必要はないと知っているジョブスは自嘲気味に笑った。
「俺は笑えますよ、アイツあんなに頭良かったんだってビックリしてます。帝王学とか何時勉強したんだよ……」
「帝王学……」
「クソ真面目なのは見ての通りだけどさ……」
「……カイルにその一片でもあればな」
何気無く、だからこその本音の呟きにジョブスは本当に笑うことしか出来ない。