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 布団の中でユダは外から聞こえる声に無意識に耳を傾けていた。顔を上げて目についたのは閉じられたカーテンの隙間から射し込む光。


『やっぱりソーディアンの晶述語と違うの?』

『レンズから晶力を引き出すという点では同じだが、その方法と生まれる威力が大きく違う。ソーディアンには人格という媒介があったが、今現在世界で認知されている晶術にはそれが無い……というより晶術と連動させられるような技術が無い。だからオベロン社で開発機した制御回路……リミッターを高密度の特殊レンズに施し、一般人でも晶術を仕様出来るようにするのと同時に暴走しないように引き出せる晶力が抑えられている。だから威力も効果範囲内も落ちるが、身を守る分には充分な筈だ』

『俺のにもリミッターあるの?』

『勿論だ。光に透かすとレンズの中に青い光が浮かぶだろう、それはウチで加工済みの証だ』


 説明する声に自信が見える。


『へーコレってそういう事だったんだ、エミリオさんの会社って凄いね』

『レンズに依存しなければならないのが苦々しい所だがな。我が社の最終目標はレンズ依存からの完全脱却……だがレンズが無ければ流通に支障が出てしまう』

『えっと、確か外郭の崩壊の後強いモンスターが増えたんだよね? それから人を守る分には為だもん、仕方ないよ』

『やれやれ、お前に慰めされるとは……しかしよく外郭崩壊を覚えていたな、歴史は苦手だとルーティから聞いていたが』


 失笑を交えた言葉に相手は慌てた。


『それはだって、その、父さん達の話だし……ちゃんと覚えなきゃ息子失格だよ』

『なるほど……だが私としてはセインガルドの歴史……最低限として歴代国王くらいは覚えてくれると有難いんだがな』

『う……が、頑張る……』


 ベッドから降りたユダはカーテンに手を伸ばすが、それは途中で止まる。その理由は今更考える必要は無い、単にその資格が無いだけ。


「……私欲で仲間を惨殺したあの男が、大人しく誰かに従う筈が無い……単なる利害の一致……英雄という名の強者の排除……」


 やっている事は同じ。否、未だ真実をひた隠しにしている分此方の方が質が悪い。

 全てを打ち明けてしまえば、いくらでも事態は好転するだろうに。


『お前は炎よりも風を具現化させる方が合っているようだな』

『んー……でも父さんが使ってたソーディアンって炎を操るんだよね? あと母さんは水で……』

『そうだな、だがお前はお前だろう。お前に合った、お前らしい形を見つければいい。今から二刀流にしろと言っても無理だろう?』

『二刀流かー、エミリオさんの戦い方もカッコイイけど、俺には出来ないかな』


 この平穏を乱したくはない、そんなのはただの言い訳。覚悟も勇気も無い、常に“兄”の命令によって動いてきた身体にはそれが無い。

 それを見越された上でこの身が自由になっているのならば、なんと滑稽か。




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bkm

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