リリスは変わらず優しい。
「幸福と不幸は真逆で、紙一重で、そして2つで1つ。不幸な結末がみえ隠れしてるから、望んだ結末を手に入れた時それを幸福に感じる。もしも絶対に不幸なんて起こらないのだったら、それが“当たり前”になったら、果たしてそれを幸福に感じるかしら。人は少しでも多くの幸せを感じたいと願っている筈なのに」
「当たり前……でもっ、幸福が当たり前になったら、それは良い事じゃ……」
「当たり前って思ってしまうと、感謝を忘れてしまうわ」
「感謝……?」
また面食らった顔をする。だが悪く捉えているわけではないのだと戸惑いが証明する。
「どうして、ですか……? 感謝って……」
「それはね、幸福の隣にあるからよ」
「え……何、で?」
「フフッ、リアラさんはどんな時に“ありがとう”って言う?」
難しい質問ではない、だからリアラは戸惑いのまま答えた。
「私は……親切にしてもらった時……あ、カイルはが仲間になるって言ってくれた時、言いました」
「嬉しかった?」
「は、はい、凄く……嬉しかったです」
「それじゃあ、それがリアラさんにとって当たり前だったらどうだった? 助けてもらって当たり前って思っていたら、ありがとうって言ってた?」
戸惑いは深い悩みに変わる。
「分からないです……言ってると思う、けど……もしかしたら……」
「うん、分からないわよね、私も分からないの」
「へ?」
「分からなくて当然なのよ、結局その時にならないと分からないんだから、人の在り方は」
その笑みは少し意地悪だった。
「分からないと不安よね、でも分からないなら分からないなりに想像力を働かせればいいの。色んな事を想像して、自分にとって、周りにとって何が不幸で何が幸福なのか考えて、当たり前という幸福を与えてくれるモノに感謝して、感謝されて……そこで生まれる“ありがとう”って言葉はきっと何よりも温かくて幸せなモノだと思うの」
「ありがとうが、幸せ……」
「長々と話しちゃったけど、つまりは私にとっての幸せは心がこもった感謝っての言葉がそれこそ当たり前に言える環境って事ね、哀しい事があっても乗り越えられるんだから。そりゃあ、哀しい事は無いに越したことはないけれどね」
実際体験した様な物言いだが、リアラは気付かない。
「“死”も同じね。死んでしまったら有無を言わさずそこで終わり、それは怖くて、苦しくて、哀しいわ。でも死だけは明確で、産まれた瞬間から常に傍にえる、そんな終わりがあるから私は頑張るの、出来るだけ後悔しないように一生懸命生きるの。今この瞬間にも何かが始まって何かが終わってるから……なんて、哲学的な事言ってみたりして。飽くまで持論だから、あまり難しく考えないで」
話の内容に似合わない明るさ笑顔にリアラは圧倒されるが、一方では何かに気付いたかの様な晴れの表情も垣間見える。そして不意にその目は、この場に居ない者を見た。
すると察しの良いジョブスが口を挟む。
「確かに人って楽へ楽へ行こうとするよな、俺だってそうしたい。でもなでもな、総帥は健気に頑張ってる、何でだと思う?」
「え、と……英雄、だから……?」
突然の質問にまた戸惑うリアラに彼も笑顔を向けた。
「それもある。でも一番は大切な人に絵柄でいてもらいたいってヤツだよ」
「笑顔……」
「そ、特に子供の笑顔は凄いぜ? 無邪気で明るくて、満てると疲れなんか吹き飛ぶし、次へのやる気が湧いてくる。そんで子供はそんな大人を見て学ぶ、良いサイクルだろ?」
軽い口調と余裕の笑顔。歳に合わぬ子供の雰囲気を感じさせるそれだが、大人だからこそ出来る事だろう。
だからなのか、リアラはゆっくりと自分の身で言葉を受け止めるかの様に頷いた。
「ロニ君っ、俺凄く良い事言ったよな?」
「その確認さえ無ければ凄く良い事だったと思います」
「まあ俺ってば詰めが甘いのなんの」
笑い飛ばす彼を呆れ半分尊敬半分で路には見ている。彼等のその関係性には確かな信頼がある、そう思わせるのは2人の笑顔が明るからだろう。
「ホント、ジョブスさんったら残念な人ね」
「……でも、ジョブスさんも凄い人です」
「そうね、エミリオを影から支えてきた人ってだもの」
そう返すリリスの笑顔も明るかった。
「……あの」
「何かしら」
「スタンまんじゅうって一体……」
「……田舎って結構強かなのよ。あ、もちろん味は保証するわ」