何かを思い出し笑うジョブスを不思議そうに見つめるロニとリアラだが、ロニは理由を察したらしく表情を崩す。
「もしかしてカイルが産まれた時ですか?」
「そ、出産予定日が近付くのにつれてそわそわしてな、連絡来たら軍部会議そっちのけで行っちゃうしで、ウイルと俺が迎えに行くまで帰ってこなかったもんよ。おっかなびっくりで赤ん坊抱いて、何時ものクールフェイス崩してたし」
「生で見たかったわそれ、出産時期被ってなかったら私もセインガルドに行ってたのに。……っと、ごめんなさリアラさん、分からない話をしてしまって」
「い、いえ……」
首を横に振ってリアラはリリスを見た、ぎこちない表情で。
「どうしたの?」
「あ、その……あの、訊きたい事が……」
「あら私に? いいわ、なんでも訊いて」
快く了承してくれた彼女に少女は問う。男性陣は口を閉ざし見守った。
「えっと、赤ちゃんを産むのってとても大変だって聞いて……」
「ええ、お母さんも赤ちゃんも命懸けね。痛くて苦しくて……お腹に居る間も大変なの、ご飯が食べられなかったり、意味無くイライラしたり。だけどそれは赤ちゃんが大きくなる為に頑張ってる証拠なんだなって考えたら乗り越えられたわ、周りの力を借りてね」
母親の顔、今のリリスが正にそうだろう。対してリアラの顔は何故か沈んでいた。
「でも……やっぱり苦しくて、逃げ出したくなって……もしも楽な方法……痛みや苦しみが無くて、お母さんも赤ちゃんも無事な方法があったら、それに身を委ねたりとか……」
「楽な方法かァ……確かに、楽に安全に産めたら良いかもしれないわ。でもその方法も何時か覆るかもしれない、命って簡単なモノじゃないから。だから、どんなに安全が保証されてても私は大丈夫とは思わないでしょうね」
言葉に強い意志がある、それは母親だからに違いない。しかしその言葉は少女を迷わせている。
「でも……でも、その絶対の安全が本当にあったとしたら、誰も哀しまずに棲む方法があったとしたら……きっと皆幸せに……」
「そうね、誰も哀しまずに済むのならそれが最良でしょうね」
答える声は優しく、言葉は鋭い。
「だけどね、誰も哀しまない幸せは何時かその瞬間の幸せではなくなってしまうと思うわ、極論かもしれないけど」
「え……?」
「何故人はそれを幸せと感じるのかしら」
「な、ぜ……?」
面食らった顔をしリアラはそのまま動かない、それほどに受けた言葉は衝撃的だったのだ。