「うーん……取り敢えず父さんは特別な修行とかはしてなかったって言ってたけど……それって父さんは元々英雄になる素質があったって事?」
結果を受けての彼なりの考察、これも一つの成長だと受け止めながらエミリオは否定する。
「アイツが剣術の才能に恵まれていたのは確かだろう。しかし、だからといってそれが英雄の素質だとはいうのはまた違うだろうな、兵士になりたくて家出するような奴だ」
「そうね、正直な所兄さんがエミリオなんて呼ばれる事に未だに違和感を感じるもの。だから私にとって兄さんは兄さんでしかないし、エミリオだってエミリオでしかないわ」
「同じ英雄たって育った環境がガラッと違うもんなァ。総帥はちっこい頃から軍人から手解きを受けてたし」
“ちっこい”の部分に力が隠っていた様に感じたエミリオだが、甥の手前これも聞かなかったことにした。
そんな彼の葉梨が出た所で疑問が尽きない2人の視線が向けられる。
「そういえば、エミリオさんって何で名前変えてたの?」
リオン・マグナス、かつて名乗っていた名前は今では英雄の名として世界中に知れ渡っている。甥でなくとも親から貰った筈の名を変えた理由は気になるだろう。
エミリオ・ジルクリストは特に躊躇することなく理由を教えた。
「どうも当時は父と反りが合わず早く一人立ちがしたくてな、知り合いの軍人を師事するにあたって名を変えたんだ。……今思えば反抗期だったのかもな」
「家出と大して変わらないんじゃ」
「黙れ」
ジョブスの発言に素早く反応したエミリオへカイルは更に質問をした。
「エミリオさんのお父さんってどんな人だった? 母さんはさ、凄く優しい人だったって言ってたけど」
父、即ちヒューゴ・ジルクリスト。世界的大企業オベロン社の創設者であり、築き上げたレンズ技術を以て天上王に対抗するも志半ばで命を落とした英雄と称されてもおかしくはないカイルの祖父。
問われた息子は、一息吐いてから憧れを目に宿す甥に父の話をする。
「父は確かに優しい人だった、自分より周りを優先に考えるような。だが若い私は理解せず、やっと真意を知った時には既に手遅れだった。後悔先に立たずとは、よく言ったものだ」
「……ごめんなさい」
辛い話をさせてしまった、その事を反省し表情を一変させたカイルに向けられたのは柔らかい笑み。
「気に病む必要性はない、寧ろ父の事を話せて嬉しく思っている」
「そう、なの?」
「ああ、私にとって父は誇りなんだ、お前にとってスタンがそうであるように」
「……そっか、嬉しいなァ、お祖父ちゃんも凄い人で」
凄い人、真実はどうであれそれは変わらない。
エミリオは立ち上がり、屈託無い笑顔に言った。
「軽く晶術の手解きをしてやる、尾根では術攻撃が有効だからな」
「ホント!? ありがとうエミリオさん!!」
出ていく彼を追うカイルの足取りは非常に軽く、一挙一動が喜びに満ちている。
見送るジョブスは地図をしまあか呟いた。
「総帥に子供が居たらあんな感じなのかねェ……」
「どうかしらね、もしかしたら甘々のデレデレになるかもしれないわよ」
「あー……心当たりあるわそれ」