カップを空にすると、ロニが思い出した様に話し出す。
「そういやカイルが言ってましたよ、リアラとエルレインが似てるって…….強ち間違いでもなかったって事なのか……?」
「うーん……あのババァとリアラちゃんみたいな可愛い子が似てるとは思えんが、そういう事じゃないんだろうな」
顎に手を置き考えるジョブスだがその物言いが流されることは無かった。
「エルレインをババァ呼ばわりか……明らかにお前より年下だろうに」
「ババァでしょうよ、話し方くどいし上から目線だし……ああいう出合いとは絶対結婚したくないですよ、金積まれてもヤダ」
言葉だけではなく表情でもその心情を語っている。そしてだれもそれに対して意見しない事が無言の肯定となった。
「大変ね都会は……バッカスとリムルが心配だわ」
「親馬鹿と修行馬鹿では心配だろうな、周りへの被害が」
「エミリオったら渡の家族を何だと思ってるのかしら」
「常人ではないのは確かだと思っている」
エミリオの言葉と視線を受けたジョブスは無言の肯定を返してしまう。だがやはり、ロニは違った。
「確かに常人ではないですね、なんせリリスさんの娘なんだから。家事が出来て、綺麗で、そして強いリリスさんの家族が普通である筈がない! リムルがもう少し歳を重ねていたら口説くのに!!」
「すげェ……母親の前でナンパ宣言かよ……」
「何処で育ち方間違ったんだ……」
驚愕する軍人、嘆く英雄。一方、一応一介の主婦であるリリスは笑っていた。
「フフッ、ロニったら相変わらずね。そうねェ、リムルのお婿さんになるなら私を越えてもらわなきゃ」
「無茶言いなさるぜこの主婦は……」
その通りだとエミリオは密かに思う。
その後、話題を戻しこれからの方針を主とした会話を続けている最中カイルとリアラが何やら疑問を抱いた表情で戻ってきた。
「お、おかえり2人共、どうだったスタンさんの話」
「うーん……何か、英雄って感じじゃなかった。ね、リアラ」
「そうね……普通の男の子みたいな……」
幻滅したというより戸惑っているに近い2人の雰囲気。リリスがココアを用意し、皆で彼等が村で得た話を聞く。
「まずボブおじさんに会ってきたんだ。それでおじさんに父さんの事訊いたら、“スタンはよく羊と寝ていた”とか、“19にもなって兵士夢見て家出した”とか教えてもらったんだ。あと、おこづかい貰った」
「次はボブさんの奥さんの、マギーさんという人に会ったんです。マギーさんは、カイルのひいお祖父さんのトーマスという人がスタンさんに稽古をつけてたって。あと、おまんじゅう貰いました、“スタンまんじゅう”だよって」
「ひいお祖父ちゃんってセインガルドの兵士だったんだよね? 父さんが英雄だから、お祖父ちゃんも凄い人なんだなって思ってたら、マギーおばさんが“トーマスは私に一度も勝った事無いけどね”って」
「歳の差もあるだろうけれど、マギーさんって何者かしら……」
そうなるのも仕方ないだろうとロニを除いた大人達は思うと同時に、リアラが持っている小さな紙箱には触れないようにしようと各々考える。
そしてリリスが疑問に答えた。
「マギーさんはね、元々ノイシュタットの闘技場でチャンピオンをしていたの」
「そうなの!? し、知らなかった……」
「ええ、ビックリよね。それにお祖父ちゃんがマギーさんに勝った事無いのもホントよ? よく力比べをしていたらしいんだけど、買った試しが無かったって」
「マギーさん……見掛けによらないのね……」
驚愕する少年少女は息を飲む、恐らく全盛期の彼女を想像しているのだろう。