「まあ……全部を疑ってるわけじゃないですけどね、助けてもらったのは事実だし」
「ん、じゃあリアラの方も似た感じかな? 総帥助けてもらったしさ」
特に違和感無く出された名前、だが意味無くそれがされた筈がない。
リリスがその“話題”に意見を出す。
「不思議の度合いで言えば、レンズから出てきたっていうリアラさんの方が不思議ね。レンズってそう簡単に壊れたりしないんでしょう?」
「エネルギーの保有量にもよるが、巨大ともなるとダイヤ以上だな。それが粉々となると、急激にエネルギーを失ったという事だろうが……今の時代、一般的にそれを可能とする技術は無い筈だ」
「それにそれにエルレインと同じペンダントなー……単なる装飾品ってなら被ってもしゃあないけど、彼女が何かする時は決まってアレが反応してるわけで……エルレインが奇跡を起こす時と同じく」
「此方も本人が口を開かない限りは判断が難しいですね。ただ……治癒術ならともかく、船を浮かすってのは流石に寛容しきれないと言いますか……」
ロニが言う事は最も、船はどう足掻いたところで浮きはしないのだ。しかしそれは確かに現実に起きており、それによって命を救われたのもまた現実。
第三者であったら先ず疑いそうな話だが、ジョブスはもう一つ現実を話す。
「本人居ないから言っちゃうけど、港で結構な噂になってたなァ……“聖女”が現れたって」
「まあ、アレじゃそうなるでしょうね……」
「恐らく他の客が流したんだろう。船の人間は口が固い、私達の居所をバラしたりもしない筈だ」
「まさか噂の聖女がこんな自然だけが取り柄の村に居るなんて思わないわよね。それに外の人が来ても知らんぷり出来る程度には肝が座ってるわよ? 此処の人達」
それをよく知っている2人の男は軽く数回首を縦に振る。
「スタンの故郷だと噂が立った時シラを切りまくっていたからな、そういえば……」
「なのにスタンまんじゅうを作るという強かさよ」
「稼げる時は稼がないとねー」
田舎の逞しさの片鱗にルーティの顔が過ったのは言うまでもない。
「単なる噂で自然消滅してくれれば幸いだが、そうもいかんか」
「当事者が一杯居ますからねェ、船長達が察して上手いこと手回ししてくれるだろうけど……ま、贅沢は言えんでしょ、知り合いの船だったのが不幸中の幸いって事で」
「まあな……」
ジョブスの言う通り前向きに受け止めなければ前には進めない。足を止めていては敵に先手を取られるがままになる、それでは後ろを信頼出来る者達に任せて此処まで来た意味が無い。
頭を切り替えようとリリスが入れたおかわりのコーヒーにたっぷり砂糖を入れ胃に入れた。糖尿予備軍と軍人が呟いた気がしたが聞かなかったことにした。