晴れない心のままリビングに戻ると、何やらカイルとリアラ、ジョブスが真剣に話していた。リリスとロニはキッチンに居るのか一方通行の会話が聞こえる。
エミリオに気付いたカイルが腰を上げた。
「あ、エミリオさん、ユダは?」
「部屋で寝ている。どうやら疲れが溜まっていたらしいな、リリスのアレに気付かないくらいに」
「えっ、大丈夫なの?」
カイルだけではなくリアラも心配なのかーーアレに気付かないくらいとエミリオが言った故余計にーー表情は浮かないが、ジョブスだけは察しているらしくゆっくり紅茶を飲んでいた。
その各々の反応に対してエミリオは何時も通りの冷静な表情で告げる。
「船上であんな事があったからな、少し身体に思わぬ負担が掛かったんだろう」
「そっか……ご飯持ってったら食べるかな」
「どうだろうな……まあわざわざ言わずともリリスが持っていくだろう。だからあまり難しく考えるな、静かに休んでいればすぐに調子を取り戻す」
「うん……」
エミリオの言葉を受けても不安を拭いきれないのかカイルの様子に落ち着きが無く、リアラもその空気に触れてか表情は若干沈んでいた。
どの様な言葉を掛ければいいのかエミリオが考えているとすかさずジョブスが助け船を出す。
「ま、彼も男だしあんまり心配しなくても大丈夫じゃない? いざという時は此方から声を掛けてあげればいいしさ」
「うーん……そっか、そうだね」
取り敢えず整理が出来たのか2人の表情は晴れる。気の利いた言葉が得意ではないと自覚している彼が心内で感謝しているとカイルが改めて叔父を見上げた。
「エミリオさん、あのさ、リアラと一緒に村で父さんの事訊きたいんだけど、いいかな」
「スタンの……」
ジョブスを見ると彼は小さく頷いた。
此処は父親の故郷、父親に憧れる息子が父親を知りたいと思うのは当然の事。それに隣には英雄を知りたい少女が居り、彼女にとってもまたと無い機会と考えての話だろう。
「……まあ、いいんじゃないか。但し、迷惑を掛けるような事はするなよ」
「うん、分かった」
「ありがとうございます、エミリオさん」
2人は嬉しさを笑顔で表現する、それは非常に子供らしいモノ。だからこそ、嘘を吐く大人は直視出来なかった。
「ご飯が出来たわよ」
リリスの声に我に返ったエミリオはソファーに座る。それから目の前のテーブルに何やら赤い具が挟まれたサンドイッチが置かれた。
「昨日のマーボーカレーにちょっと手を加えて河さんでみたの。マーボーサンドってトコかしら」
「朝からヘビーな……まあ、マンボウじゃないだけ運が良かったっつーか……」
「じゃあ、ジョブスさんだけマンボウサンドにしてあげましょうか」
「いやいやいや、マンボウは海に居るのが一番の幸せだから」
一体過去にマンボウと何があったのかリアラは疑問に思うが、賢明いうべきかこの事に関して言及する者は居ない。
「エミリオ、ユダさんは?」
「寝てるそうだ」
「そう……じゃあ後でご飯持っていこうかしらね」
気遣いが出来る女性がそう言うと、そんな女性を崇め讃える男がサラダをテーブルに置きながら溜め息を吐いた。
「ったく、リリスさんの料理をスルーするとは……男の風上にも置けねェな」
「ロニ君って絶対女の尻に敷かれるタイプだよな」
「美女の尻にだったら本望です」
「そこまでの覚悟たったらもう何も言わねェよ。リアラちゃんがドン引きしてるけど」
ジョブスに言われて慌てて弁解に入るロニだが、やはり冷ややかなのがカイルの反応。
「ロニって見た目はカッコイイのに、何でこんなに女の人が好きなんだろ」
そう言われたら弁解よりも反論を優先するのが彼。
「語弊があるぞカイル、男は皆女性が好きなんだ。お前はそれを分かっちゃいない、つまりお子様ってわけだ」
「彼氏居る人気ナンパして怒られるくらいならお子様でいいよ俺は」
お子様と称した少年からの正論に遇の音も出ないのかロニは久地を閉ざし、視線を落とし、ゆっくりとソファーに座った。
「ルーティに似てきたな……」
姉の子の成長にエミリオも静かに溜め息を吐く。