寝坊助とはカイルの事だろう。しかし各々現実逃避をしていた男達は突如一斉にリリスわを見た。
「リリス……お前、まさか……」
「腕が鳴るわー、鈍ってないかしら」
意気揚々と去るリリス、見送る男達の顔は真っ青だった。
一体何が起きているのか、不安を見せる少女に真剣な眼差しの英雄が告げる。
「両耳を塞げ、今すぐ」
「え……どうして……」
「すぐに分かる」
そう言って自分の両耳を塞ぐ英雄。傍に居る軍人も同じで、従うべきだと理解したらしいリアラは自分の両耳に手を置いた。
その直後、けたたましい轟音が響き渡る。
「ひぇっ!?」
耳を塞いでもそれを突き破り響く攻撃的なその音は、家の中どころか村中に響き渡っているのではないか。そう思えてしまう轟音は十数秒で強過ぎる余韻を残し終えた。
「くっ……流石本家、耳塞いでもダメージが……!」
「あ、総帥だけ耳栓付けてる! ズリィ!」
「あまり意味を成さなかったがな……くそ……」
自社製品が通用しなかった事が悔しいらしいオベロン社の総帥はジョブスからの苦情を無視し、またもや茫然としているリアラに声を掛ける。
「大丈夫か」
「は、い……今のは……一体……」
「目覚ましさ、リアラちゃん……この家に伝わる……」
やや感慨深く話すジョブスの目に力は無い、エミリオやロニも同じ。
だが、たった今やって来た少年と女性の表情は対照的に明るい物だった。
「おはよー皆!」
「……お前さ……アレを受けてよく平気だな……」
「んー確かに母さんのより強力で……凄いパッと目が覚めたよ! あとリアラの目が覚めたって聞いたから!」
「ああ、うん、お前はそういう奴だよ……」
今更だったとロニはカイルの頭を撫でる。何故撫でられたか分からないカイルは首を傾げ、そしてある事に気付いた。
「あれ、ユダは?」
反応したのは若者2人。
「そういえば……此処には来てないわ。カイルより遅く起きるなんてないと思うけど……」
「ハァ……何考えてるか分かんねェ野郎だからな、外にでも行ったか? あ、だとするとアレをモロに……」
ロニの言葉にリアラが慌てた様子でエミリオを見る。すると彼は立ち上がり、フライパンの確認をしているリリスに言った。
「部屋を見てくる」
「ええ、じゃあ私はご飯の準備をするわね」
極自然に言葉を返した彼女がキッチンに向かったのを見てからエミリオは部屋へ向かう。さも当然の様にキッチンへ着いて行ったロニは見なかった事にした。
「何を考えているか分からない、か……」
素性を隠した相手に不信感を抱く、それは当然だろう、カイルが父親に似てお人好し過ぎるだけなのだ。しかし、ならば抱いているのが不信感ではない別のモノである己は何なのか。
己に対し不信感を抱きながら彼はドアの前に立ちノックをする。
「入るぞ」
返事は無く、中で何かが動く気配も無い。エミリオは音を立てないようにドアを開け中に入った。
特に変わった様子は無い普通の部屋。ベッドには膨らみがあり、近付いて見れば壁に顔を向け眠っているその姿はあった。
「ユダ……」
眠っているのは変わらないが、涙の跡がある。恐る恐る手を伸ばし髪に触れた。
「ん、っ……」
反応し身動ぐが、エミリオは手を離すどころかまるで宥めるようにそのまま頭を撫でる。だが目を覚ます様子は無く、ゆっくりとした寝息を繰り返していた。
朝なのだから起こすのは自然だが、それを彼はせずに静かに部屋を後にする。
「……何をやってるんだか」