「ロニ、カイルはやっぱり起きてないのかしら」
「あ、あー……いや、はは……」
振り返り背後に居たリリスを見ながら彼は笑うが、すぐに溜め息を溢す。その理由を一番理解しているのは当然リリス。
「もう、こんな所まで兄さんに似なくてもいいのに」
「かといってルーティに似られても困るがな。身内に守銭奴が増えるなんて真っ平だ」
心の底からそう思っているのかエミリオが吐いた溜め息には重みがある。
それに対して再びリアラが疑問を口にした。
「あの、ルーティさんってエミリオさんのお姉さん、なんですよね……?」
「ああ」
「えっと……エミリオさんから見たルーティさんって、どんな人なんですか……?」
“守銭奴”という言葉が引っ掛かったが故の問いだろう。“エミリオさんから見て”の部分が都合よく聞こえなかったのか喋りだそうとするロニをジョブスが口を塞ぎ止めている間に、エミリオは真実だけを告げた。
「詐欺、盗掘、脅迫、密航、不法入国、その他軽犯罪を諸々をやらかしてくれた元指名手配犯」
「……え?」
「当時は“強欲の魔女”なんて通り名がありましたね、懐かしいなァ」
嘲笑する英雄、思い出に耽る軍人、茫然自失の少女。軍人の手から逃れた彼は主張する。
「でもルーティさんは素晴らしい女性ですよ! 母性に溢れ、家事も完璧で、強くて、何より美人! 美しい黒髪、力強い眼差し、素晴らしいボディライン! ルーティさんに出会えたこの人生、きっと俺は前世で凄く良い事をしたに違いない……!」
恍惚の表情は本当に幸せそうだった。
「ジョブス、甥に姉を力説される弟の気持ちが分かるか?」
「いやぁ、一人っ子なんで分かりません」
「それは良かったな」
遠い目を見せたエミリオは遂にその目を閉じる。ジョブスもフォロー出来ないのかただただ紅茶を飲み、未だに力説を続ける青年を見ていた。
英雄を知りたい少女も言葉を失ったままだったが、何時の間にかキッチンに行っていたらしいリリスの手に空のフライパンとおたまがある事に気付き我に返る。
「リリスさん……あの、どうしたんですか……」
「んー、久々に寝坊助を起こそうと思って」