最後まで言葉にする前にリビングのドアが開く。
「総帥ーやっぱり船無理みたいですよー、っと、お取り込み中?」
現れたジョブスは踏み入れかけた足を止め2人を見る。エミリオはカップを置き、手招きで彼を傍に呼んだ。
「単なる世間話だ。で、被害はどの程度だった」
「船底ガッツリ、船首はボロッと、完璧に直すにはノイシュタットに持ってかないとダメっぽいですよ。代わりの船もすぐに用意出来ないって……はぁーあ、徒歩決定だよ。霧だらけの尾根越えなんて嫌だよねェ、リアラちゃん」
「えっ、えっと……」
突然の指名にリアラが言葉が見つからず困っていると、先程まで優しい目をしていたエミリオが溜め息を吐く。
「コイツは常にこうだから気にするな」
「俺は皆の意見を代表して言ってるだけですー」
「ガキか」
「心は少年なモンでね。今更ながらリアラちゃんおはよー、体調は大丈夫?」
飄々とした彼の態度には先日の船内である程度慣れていたリアラは気を取り直し、少しぎこちない笑顔を返した。
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、女の子に優しくするのは男の使命だから」
「それをわざわざ口にしなければもう少しまともな扱いを受けるだろうに……」
残念だと言わんばかりに呟けば当の本人から渇いた笑いが返ってくる。
微妙な空気のそこに顕れるのは、欠伸をするロニ。
「おはよーごらいまふ、っと……」
「はよはよロニ君、今日もイイ男だねェ」
「類は友をなんちゃら……」
「俺は船内の女性全員ナンパするとか、そんな勇気ありませんから」
反論池袋を述べるジョブスだがエミリオの目はやはり冷たい。結果最年長である筈の男はいじけ、おかわりの為にエミリオが入れた紅茶を横取りした。
「ったくさー、わざわざ早起きして港に行ったってのに労いの言葉が無いんだもんな……」
「ジョブスさん港行ってたんスか?」
「そうなんだよロニ君、俺は珍しく軍人らしい仕事をしたんだよ、休暇中だし管轄外なんだけど。てかなんで嫌味言われてんだろ……」
急に冷静になった彼は遠い目をしているが、長い付き合いのエミリオは軍人としてあるまじき発言も含め無視し紅茶を飲む。その何時も通りの様子を見て苦笑いをするロニに背後から声が掛かった。