「私達は結局一人の人間でしかない……世界を救ったから英雄だと言うのなら、この世には英雄と呼ばれる人間はもっと存在する」
「え……そ、それは誰ですか!?」
今までに無い大きな反応に内心エミリオは驚きながらも、真剣な眼差しを受け彼は希望を叶えた。
「世界が外郭に覆われた時、外郭に穴を空ける為に必要なレンズを世界中から募った。その結果、レンズは集まり作戦の成功に繋がった……私の言いたい事が分かるか?」
「……分からないです……そのあと、エミリオさんは天上王を倒した……ですよね?」
「その通りだ。だが、もしもレンズが集まらなかったら? 人々が天上に屈し諦めていたら? 私達は外郭の向こうに行く事すら出来なかった。だから、当時世界が闇に包まれながらも希望を抱いた人間全てが世界を救ったんだ」
英雄の言葉を受けた少女の表情は驚きと、微かな憤りを見せる。
「そんな……そんなの詭弁ですっ。エミリオさん達が居なかったら世界は救われなかった、それが……」
「そう、誰かが欠けても勝利は無かった、紛れもない事実だ。そして私達がお前の捜している英雄ではない事も、事実だろう」
「……でも……でも、世の人は……」
否定出来ない事実、しかし認められない少女は深く俯きありもしない反論を探す。だから代わりに英雄が言葉を差し出した。
「人の心は一種類じゃない、私とお前が違うようにな。広い世の中だ、英雄を敵視する者だって居るだろう」
「そんな事っ、……あ……」
英雄を敵視する者をリアラは知っている、だから言葉を詰まらせた。そして、力無く頷くことで認める。
「“英雄”なんてものは所詮、世間が勝手に与える称号に過ぎない。本人の意思に沿わないそれに、何の力があるんだろうな」
「そんな……それじゃ……私……」
自分の言葉で絶望を見せる少女に、彼は更に自分の言葉を伝えた。
「世間ずれは私達が英雄だと言い、私は世間が英雄だと言う……ならば、お前が求める英雄とは何だ? 世間が選んだものじゃない、お前自身は何を望む、英雄に何を求める」
問いに対し、絞り出す様にして少女はもう一度それを答える。
「私は……知りたいんです……世界を変える力が一体何なのか……英雄に会えば、それが分かる……そう思って……」
「だが私をがそうでないのなら、お前が知りたい答えを私達は持っていないのだろう。もしかしたらそれはウッドロウかもしれないし、そうではないのかもしれない……全ては起きてからでなければ分からない」
彼は現実だけを告げていく。
「だから人は“可能性”を提唱する。答えが出るまで、或いは出てからも、模索するんだ」
温い紅茶を飲み嘲笑する姿は何処か哀しげだった。同じく紅茶を飲むリアラはそれを見て首を傾げる。
「エミリオさんは……今何か、探しているのですか……?」
口を開いた表情にあの哀しげなものはもう無かった。
「そうだな、色々考えなければならない事がある。第一としてはバルバトスの対処か……化物の度合いで言ったら、天上王を超えるかもしれんな」
英雄に溜め息を吐かせる程の強大であり凶悪である敵。確かに最優先で考えなければならない事だと納得したのか、その答えを聞いてリアラはゆっくりと息を吐き己を落ち着かせ質問を続けた。