「接し方に困ってるの?」
「そういうわけではないが……何故身分を明かさないのか気になってな。名前、出身、生年月日、動機……全てが不明だ、疑ってくれと言わんばかりに」
「何かを警戒している、ってのが定石でしょうけどね、考え無しに口を閉じる程馬鹿じゃないだろうし。そんな現状で分かるのは、かなり戦闘慣れしてるくらいかな……それも何かしらの得物を使った」
軍人の視点で告げるとエミリオは頷き同意した。剣を扱うこの2人にリリスが再び質問をする。
「やっぱり分かるものなの? そういうのって」
「ロニから聞いた分に今日まで見た身のこなし……それに先程喧嘩を吹っ掛けられたのを総合して、大方確実だろう。今は格闘術をスタイルにしている様だが、体重の掛け方が近接武器を使っている者のそれだった」
「さっすが元王国客員剣士、洞察力が半端ないわ。……よく考えたら俺、総帥と試合して勝った覚えねェや」
それに関しては納得しているのか溜め息等も無くジョブスは笑った。だがエミリオは敢えて突き落とす。
「リリスと試合でもしたらどうだ」
「分かって言ってっから嫌だわこの人……」
「流石に軍人さん相手じゃ手も足も出ないわよ」
「暴漢複数人まとめてギッタギタにしといてこの人も何言ってんだ……」
ダリルシェイドで伝説となっている事件の、正に生きた伝説を見て軍人は最早呆れ果てていた。
「寧ろ俺の方が一般人っていうね、世の中不公平だよっと。総帥そろそら休んだらどうです、結局一番働いてんの総帥なんだから」
「ああ、文句言われる前にそうする」
「自覚あるなら行動で示してくださいよ……」
「フフッ、その通りね。おやすみなさいエミリオ」
早速文句を言うジョブスとそれに同意するリリスに溜め息だけを返しエミリオはキッチンを出ていく。
足音が遠退き聞こえなくなった所で、ジョブスは彼よりも更に深い溜め息を吐いた。
「総帥、ね……普通は“社長”でしょうに」
「彼なりの“責任”の果たし方、でしょう?」
分かりきっている言葉に彼は認める意味で再び溜め息を溢す。
「まあ、18年も経てば違和感も無いけどね。ただ気掛かりといえば、一生その肩書きと共にもうこの世には居ない“影”を本人も気付かない様な心の何処かで追うのかなと……それを考えると、ユダっていう存在が博打になってくる気がしてね」
「博打……」
神妙な面持ちの彼に、リリスはカップに紅茶わ注ぎながら耳を傾ける。
「“エミリオ・ジルクリスト”は“ユダ”を昔の自分に似てると言ってる、俺もそれは否定しない。でも結局は他人だし……だが、何かそれだけじゃない気もするんだよな。……いやべつに、ユダをどうこうしようってわけじゃないけどな」
漠然とした言葉、しかしそれへ説得力があるとリリスは感じていた。それは彼等が20年近く共に仕事をしてきた仲だからだろうか。
「取り越し苦労ならいいけどさ……」
「そればかりは、本人にしか解決出来ない問題ね」
だがそれは、とても歯痒い。